第76話 始まりはいつも気付かぬ内に
中国から帰国後、ゆっくり休む間もなくハワイへと向かう。国際空港から専用チャーター便に乗り、空を飛ぶ。中国と日本の時差に大差がなかったことは幸いだった。
「で、なんで吾が輩だけ生徒と同じ席でしかもカレンさんの隣でござるか?職員は真隣のエリアのはずなのに」
「職権濫用です」
「言い切った」
学園から国際空港に向かうバスもカレンさんの隣で周囲の女子生徒に散々弄られたでござる。もっと言うと家に迎えに来た黒塗りの車にカレンさんが既に乗ってて同伴出勤(+姉上とレイミさん)になったでござる。一緒に車から降りたときのあのどよめきと黄色い声が忘れられない。黄色い声の方は姉上のらしいけど。
「ねえねえ、くま○ン先生とカレンは結局どういう関係なの?」
「吾が輩ゆるキャラでもないし先生でもないでござる。普通のお知り合いですよ、お知り合い」
今はまだ穏やかな時間。朝早い出発のため飛んでる最中は寝たいところだけど周囲はお年頃の女の子達。そうはさせてくれない。そりゃあ女の園に男一人混じってたら目立つでござる。
「ただのお知り合いが腕組んでラブラブくっついてたりしませんと思いまーす」
「この人は私の男だから」
「「「「ざわ…ざわ…ざわ…」」」」
え……、なにこの空気。皆クラスメートじゃないの…?っていうかいつから私の男になったのかな?
「カレンに恋人…?!くまモ○先生気を付けた方がいいよ、カレンのファンクラブは過激な人が多いから」
「その伏せ字隠れてないから、ガチで怒られるから。カレンさんのファンクラブ?」
「人呼んで『紅の貴公子』! 一年の時に学園祭で演劇をやったんですよ、男装して。それがまあ完璧に宝塚でして、全校生徒のハート鷲掴みにして次の日にはファンクラブが出来てました」
「んでんでんで、今年の新入生歓迎会でその時の演劇を流したらストーカーが増えました」
「ほう、男装の麗人というヤツでござるな」
「ちょっとやめてよ恥ずかしいから……」
「おお、カレンが珍しく照れてる」
フランス名門貴族、
「あのときは女子と男子は校舎ごと分かれてるにもかかわらず、毎日毎日授業が終わる度に告白男子の列が絶えなくて」
「結局男子は女子校舎出禁になって解決……、かと思いきや女子の中からも告白する生徒が絶えなくなりましたとさ」
「その内ファンクラブと告白する生徒がトラブル起こすようになってきて、ストーカーも加わってさらにややこしいことに」
「そこへなんと!く○モン先生とカレンが黒塗りの車から腕を組みべったりしながら登校!」
姉上はこっちをちらっと見て『この女たらしが』と言いたそうにクソデカ溜め息してたでござる。
「で、今朝のどよめきと黄色い声でござるか。半分は吾輩じゃないけど」
なるへそ、納得でござる。
「先生、後ろから刺されないように気を付けてね」
「冗談ポイでござる。そんな簡単に学校に刃物を持ち込んで人を刺すなんてことするワケが……」
「いやいやマジでマジで。マジでそういう事件起きて警察沙汰になったから。全力で揉み消したみたいだけど」
「……マジ?」
「マジも大マジよ」
穏やかに、静かに始まる高等部二年生の遠足。ミッションとは別に、事件の香り。裏で起きるサード・アイとの戦い。これから始まる隕石撃墜ミッション。で後ろから刺されそうとか刺されなさそうとか。僅かな平和の中にじわじわと染み込んでくる脅威。なんだか今回もめんどくさいことになりそうでござる。
「ところで副学長とはどんなご関係で?」
「副学長?そういえば同行する武蔵野学園の一番偉い責任者って誰でござるか?」
「いやいや、今朝一緒に車から降りてきたじゃないですか。両脇に腕組んでラブラブな二人と、もう一人インターンの先生がいて」
「…?まさかレイミさんが副学長?うそお、聞いてないでござる。ていうかあの人ちゃんと仕事してたんでござるか」
(((まさかこの人は何にも知らないで一緒にいるの…?)))
「吾が輩中卒だから普通の高校すら縁はないし、武蔵野学園に通う上流階級とは生きてる世界が違うでござる。まー進学とか興味もなかったし……、え?なに?皆その顔。ポカーンとして」
「「「中卒?!」」」
前後左右、席を乗り出してまで話しに来ている女子生徒も皆『お前マジで言ってんのか』という顔。世界的大企業のご令嬢だからそりゃ凄い人には違いないんだろうけど、だって学校なんて吾が輩には関係ないですしおすし。
「ヤバいわ…この人パネーわ……」
「えー…、だって口を開けばいっつもいっつも『結婚しよう』とか『ベッドインしよう』とかそんなんばかりでござるからどんだけ偉い人かなんて分からないですしおすし……」
「「「おめでとうございます。結婚式のご予定は?」」」
「了承してないでござるよ?!」
「私は認めない!」
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