第75話 父、現る
「ただいまーでござる」
「あ、お兄ちゃんだ、おかえりー」
「あらあらやっぱり荷物が増えてるわね。ちょっと持ちましょうか」
「お母さん、お酒だけ持つのやめよ?」
玄関に入ると母上と妹君が出てきた。秘書さんに迎えに来てもらっていたのだから帰りももちろん送ってもらった。魔界がどうとか侵略がどうとかの話が聞きたかったけど、紫禁城で起こったテロ事件をもみ消すことになったので再び怒られた。帰りに聞いて初めて知ったのだが、スーさんは会長のおばあちゃんん家に住んでいるとのこと。つまりわりと近所だったでござる。
「立てこもり事件があったってニュースでやってたけど大丈夫だった?」
「観光は初日に行かせてもらったから関係なかったでござる」
「晩御飯はもう済ませたの?」
「帰りの飛行機で済ませたというか、言わないでも提供されたでござる」
「ファーストクラスじゃ当たり前ねぇ~」
「生きてる世界の違いを感じる…」
着替えなどを入れた荷物は自分の部屋に投げ込み、リビングに向かう。ほんの一週間だったというのにひどく懐かしく感じる。
「あれ?息…子……?」
「お館様…?」
「おう、タケおかえり」
テレビを見ながらポテチをポリポリしている姉上。一緒に見ている父上殿。
「息子よおおおおおおお!」
「お館様あああああああ!」
「あたしはシカトかよ」
「息子よおおおおおおお!!」
「お館様あああああああ!!」
「息子よおおおおおおお!!!」
「お館さまあああああああ!!!」
「むぅぅぅぅぅすこよおおおおおおお!!!!」
「おぉぉぉぉおやかたさまあああああああ!!!!」
「ちょっと!!テレビ聞こえない!!!!」
「「はーい……」」
「ねえ、アタシは?」
絶叫する吾が輩と父上殿、妹君に怒られて止まる。ふと、神剣が目に映る。帰りの飛行機に乗る頃、どこへともなく消えてしまっていた。いつの間に帰ってきていたのでござるか。というか吾が輩と一緒にいたときここではどうなっていたのだろうか。
「そうだ息子よ、シオン・アスターのCDありがとうな。ハワイ土産もよろしくな」
「え?」
「え?」
「昼間にレイミさんって女の人が来て遠足のしおり置いてったよ?」
「人が足りないから借りてきますねって、お前いつの間に玉の輿に乗ったんだよ」
「ええ?」
「遠足でハワイかー、流石レベルが違うわー」
「日程は明後日出発だってー、羨ましい……」
「えええええ?」
なにそれ吾が輩聞いてない!
前回、中国から帰ってきたばかりでハワイ行きを告げられた吾が輩。以前、警備を兼ねた用務員にならないかという話の中で、サード・アイから脅迫されていると聞いた。まさかその遠足でござるか?結局遠足の警備はやるって方向で押し切られてたけどこれはちょっと…。
「は、ハワイ?」
「ほらコレ遠足のしおり。帰ってくるの土曜日らしいよ」
「ええー…、昨日の今日でもう海外の話でござるか…」
渡された遠足のしおりとやらは立派なフルカラーの冊子だった。見ると月曜の朝、AM5:00集合とある。まさかの4時起きでござるか……。
「よいではないか息子よ。聞けば武蔵野学園はいまだに男子と女子が分けられているそうではないか。そしてあのご令嬢に付いていくんだろう?つまり女子部にいくんだろう?ウハウハじゃないかw女風呂覗けるかもしれないぞ?www」
「丸見えには興味ないでござる……」
「それは成長というものだな、息子よ」
「あ、あたしもソレ行くから」
「「「「は?!」」」」
「いや、人が多いことに越したことはないって言われて、適当にインターンってことにして同行してほしいって」
「お、お姉ちゃん……マジ?いいなー!」
「ああ、まあマジだけど仕事っちゃ仕事だし。あたしはそこそこ前に連絡もらってパスポート取ってきたんだけど…あれ、言ってなかったっけ?」
唖然、呆然、超愕然。驚き、桃の木、山椒の木。聞いてませんぞ姉上!!
「そっかー、ごめんごめん」
悪びれることもなくポテチを食べ続けようとする姉上。取り上げる吾が輩。それをテーブルにパーティ開きする母上。
「というか姉上大学は?」
「学園にインターンってことになったから春休みからそのままスライドしてる。で、その初仕事がハワイの遠足。おい、あたしのポテチ」
「バ、バカな……こんなことが………」
ポリポリ
「うーん、でもタマちゃんが一緒ならなお安心ね」
ポリポリ
「お兄ちゃんがまたしてもハーレムを作っている…」
ポリポリ
「羨ましいぞ息子よ。歌姫と友達になったりご令嬢の逆玉の輿とは。ただ、どちらにするかは早めに決めておくといいぞ」
ポリポリ
「アタシのポテチェ…(´・ω・`)」
一晩明けて日曜日。レイミさんに電話を掛ける。
「もしもし、戦野です」
『そこは武蔵野ですがって名乗っていいのよ?もうご両親には挨拶しといたし、不束者ですがよろしくお願いしますって挨拶されたし』
電話切ろうかな…。知らぬ間に外堀がどんどん埋められていくでござる…。
「父上が逆玉の輿とか言ってたのはそのせいでござるねってオイ、それじゃ婿入りしてるでござる。レイミさん、吾が輩中国から帰ってきたばかりなんですがもうハワイ?」
『しょうがないわよ、中国のアレは仕組まれていたとはいえこっちからしてみれば突発的だったし』
「あと姉上も来るって聞いてないんですが」
『そりゃあ聞いてないでしょうね、言ってないもーん』
もーんじゃなくてですね……。
『実を言うと今回も戦いになりそうな雲行きになったから、急遽ござるくんの代わりが必要になったのよ』
「ええ…」
『でね、隕石の撃墜が今回のミッションよ』
「…」
『あとは行きながら話すからよろしくね、あ・な・た(はぁと』
「…」
『もしもーし?ツッコミ待ちなんですけどー?あ、ツッコミってもしかして違うところにツッコミたいのかな?朝勃ち?やだーそう言ってくれればいつでも
プツッ
『ツー、ツー』
もう驚かない、もう何を聞いても驚かないでござる。
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