第72話 お前の席ねーから!

「さて、今日は休息日でござる」


「そうだねにーちゃん」


「さてさてそしてここは紫禁城。テレビで見ても大きいとは思ってたけど実際来てみるとやっぱり広いし大きいでござる」


「そうだねにーちゃん」


「おいそこの焼豚!勝手に喋ってんじゃねーぞ!」


「どうしてこうなった」


昨晩の怒りはどこへ行ったのか。今朝、いやに優しくなった秘書さんにしばらくのお休みをもらったでござる。観光するなりなんなり自由だと。しかも変身してもいいし勝手に飛び回ってもいいって。ご子息の青年さんマジイケメン。誰だよボンクラなんて言ったのは。一緒に寝てた龍のお姫様と青龍たんは、


「ダメです」


と言われ半べそだったでござる。今ごろベッドで枕を涙で濡らしているに違いない。


「秘書さんは事後処理があるから忙しいそうです」


「お仕事大変だねー」


「おい焼豚!喋んなつってんだろ!皆静かにしてるんだぞ!お前だけだぞ喋ってるのは!!」


「もはや加工品」


そして今、なぜか人質になっているでござる。観光客を狙ったテロらしい。しかしここは北京市。田舎じゃないので恐らくすぐに警察に包囲されるはず。


「もうすぐ一人目の時間だ。ちょうどいい、お前から殺してやるよ」


要求は知らないけど、一時間ごとに壁に張り付けて銃殺だってさー。世界遺産の壁を穴だらけにしようなんてなんと不届きな輩でござるか。


「おら立て!歩け!」


「はーい」


「四足歩行な」


「バカにし過ぎでしょ」


犯人グループはざっと三十人。あくまでもここ、乾清宮にいるだけの人数で見えないところにもっといるかも。とはいえ紫禁城全てを占拠するのは不可能だと思われるでござる。


(ここにいるのが全員ならやってしまいたいけど、吾が輩はそんなに速くないでござる。ほんの一瞬でも隙が出来たらおしまいだし…)


「さあ、最初の犠牲者だ!恨むんなら要求を飲まない中国政府を恨むんだな!」


吾が輩を焼豚と呼ぶ男の持つ自動小銃。あれはたぶんAKでござる。なんで分かるかって?FPSやるようになってちょっとググったりしてるでござる。ゲームにだって詳しいステータス載ってるしなんとなくは覚えてくる。あんなのどっから買ってきたのやら……。


「おひょひょひょひょ」


「クソ、何故だ!何故当たらん!ええいデブがくねくねと気持ち悪い!」


火を吹いたAKはマガジン一本使い果たすも一発も当たらず、吾輩にかすり傷さえ与えることはなかった。


「ええい!避けられるなら避けられないようにすればいいだけだ!女や子どもを後ろに立たせろ!!!」


「なんと卑怯な」


「黙れ変態!」


「変態紳士とお呼びください(キリッ」


「もうやだこの人質……、誰だよ日本人巻き込めば安全にテロできるとか言ったヤツ………」


「お前だよお前」


吾が輩と壁の間に他の人質になった観光客が並ばされる。本当に女性や子どもばかりだ。これは月に代わってお仕置きが必要でござる。


「さあ! 気を取り直して今度こそ!」


「ォアチョー!アータタタタタタタタ!\(^o^)/オワタァ!」


「なんだお前!ふざけているのか!」


「避けるなと言うから避けなかったまで。避けられないのなら全て掴んでしまえばいいでござる。下手に弾いたら他の人が危ないですしおすし」


掴んだ弾丸をジャラジャラと地面に落として見せる。


「にーちゃん、あんまり遊んでると秘書ねーちゃんにまた怒られるよ」


「クソ!おいお前ら集まれ!!全員で撃つんだ!!!あと掴むの禁止!!!避けるのもダメ!!!!」


全員?あっふーん(察し


「三十人が30発(マガジン一本あたり)で900発だ!今度こそ死ねえ!!」


「吾が輩は滅びぬ、何度でも甦るさ。吾が輩はニートだからだ」


苛烈なる弾丸の雨が降り注ぐ!


バターン!


「はっ! ここは?」


「ここは審判の門。ワシはいわゆる閻魔大王」


「ほうほう」


「あの世にお前の席ねーから!」


ムクッ!


「ウワアアアア!」


「ただいまでござる」


「お黄泉還かえり。どこ逝ってきたの?」


「閻魔さんのとこでござる、追い返されたでござる」


地獄はともかく天国に吾が輩の席はないとはどういうことなのか。解せぬ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る