第71話 人の夢と書いて儚いと読む
「結局偉い人見つからなかったね」
「こんだけ派手にやって二人も大きな戦力を止めてたんでござる、こっちは陽動だったんでしょう。それにしても暑い……」
「昼間の砂漠なんて真夏よりヒドイからねぇ…」
パタパタと手で仰ぐ。悲しいかな、鎧を首筋に押しつけてる方が涼しくなる。
「倒すものは倒したんだし帰っちゃダメかな……」
「秘書さんからの連絡待ちでござるー」
「冷たいプールに思いっきり飛び込みたい……」
同じことを考えていた。いくら熱射に耐える特性とはいえあくまでもそれは鎧のみ。鎧の接合部、そのわずかな隙間から入る熱気、顔面に照りつける日射し。それだけでも十分に暑い。
『プールって、大きな水溜まりを作ってるあのプールですか?』
「よく知ってるでござるなー。プールっつーかこの場合水風呂のがいいけど」
頭は汗まみれで砂まみれだ。何度か砂漠にめりこんだこともあり鎧の内側にも少し入っている。
『そういえばこの砂漠は昔は湖だったんですよ』
「へー、そーなのー」
『別に、ここを湖にしてしまっても構わんのでしょう?』
「あ?」
「へ?」
いらない雑学にどこかの弓兵が言っていたようなセリフ。この広大な砂漠を湖にする?そんなバカなことが出来るワケないでござる。
『仮にも四神剣・青龍ですよ?ちょっと待っててください』
「あっちょっと」
勝手に人の腰から自分の本体?を抜いて空に飛び立っていった。剣で大きな円を描いている。なんなんだ一体。ノーブラ透け巫女は頭パーなのか。今度巫女巫○ナースでも見せてみる?下からパンツ丸見えもろ出しでござるよ。
『大瀑布!』
「「エー…」」
どうなっているのだろうか。というか神剣とか青龍とか関係あるのだろうか。描かれた円から轟音と共にとんでもない量の水が現れた。いやこの場合聖水と呼ぶべきか?ノーブラ透け巫女の聖水…?なんと甘美な響きなのだろう……。なんてバカなことを考えてる内に頭から水圧で押し潰された。
『しばらくすれば泳ぐくらいにはなると思います』
「マジ半端ネェでござる」
「凄い凄いスゴーイ!」
『もしもし?何やってるんですかあなた方は』
「あっ、秘書ねーちゃんだ」
「なにって、海水浴?」
いつものインカムに通信が入る。聞こえる声からは怒気を孕んでいることが伝わってくる。
「おーい、レイミー。テレビ見てみろよー」
「どうかしたんですかー?げぇっっっ」
「アヒャヒャヒャヒャ、ようやるわアイツら」
「てんちょー、ここにもプール作りましょうよー」
お迎えが来るまでのしばらくは天然プールで身体を冷やしゆっくりしていた。しかしついでに青龍たんをテレビに映してしまい18禁モザイクの掛かった世界デビューとなった。神剣の目覚めに中国のみならず世界が興奮と歓喜に湧いたと同時に大きなお友だちも作ってしまったでござる。
「はあっ、やっと帰ってこれたでござるゥ……」
「もー足痛くてたまらないよ……」
二人して大きくて柔らかい上質なベッド。帰るなりすぐにシャワーを浴びて倒れこむ。一日で中国大陸をほとんど横断する状況になり、さらについさっきまで正座で説教を食らっていた。
『早く帰ってきなさい!!!』
からの
『まったく貴方たちは何をしているんですか!首席発見の通信を入れてもまるで無視!遊びに来てるんじゃないんですよ!』
『え、そんな通信あったっけ?』
『うーん、聞いてないかな…?』
『正座しろォ! そこになおれぇ!』
で、延々と説教タイムが始まり気付けばもう真夜中。もう風呂に入る体力もなかったでござる。国家主席は国境付近の山を越えしようとして遭難していた犯人ともども見つけたそうな。犯人はバカなのかな、あんな険しい山々を徒歩で越えようとは。
「こんばんは」
「「『?!』」」
あともう少しで夢の中、というところで幼い女の子がベッドの下から姿を表した。
「えっと……、どちらさまでござる?」
「おじちゃん、わたしのこと忘れちゃったの?」
『神剣の持ち主が誘拐犯……』
「いやいやいやいや」
「……、ひょっとして『姫様』?」
「なぬ?」
待った待った待った。今目の前にいるのは普通の少女。龍ではないでござる。というか付き人さんと別の部屋に泊まってるはずでござる。騒ぎが収まってからこっそり帰るってそんな話だったはず。なんでここに?
「付き人さんは龍は人に化ける術を持っていないと……」
「それはうそ。わたしもわたしのお父さまもお母さまも兄さまも姉さまもみーんな人間になれるよ?でも他の人には秘密」
『恐らく始祖の血を引いているのですね』
「なにそれ初耳ー。始祖の血を引いてたら人間になれるの?」
『そこはまた色々と事情や都合や設定があるのです』
「でもわたしはツノとしっぽが出ちゃう」
「ツノ?しっぽ?」
言われて気付いた。よく見ればこの少女、頭から小さなツノが生えているでござる……。昼間チラッと見えた時は普通に龍だったのに、こんなに人間そっくりになるでござるか。
「おじちゃんのお腹ふかふかー」
「お兄さんでござる」
『このスケコマシ戦士』
「透けてるのは青龍たんでござる」
『違う、そうじゃない』
「それにしても青龍たんは剣に引っ込んでずるいでござる……。吾が輩たちは正座で何時間も怒られたのに」
「砂漠を湖にしたの青龍なのにね……、真っ先に逃げるなんてヒドイよ…」
『記憶にございません』
いつかへし折ってやるでござ…ござ…zzzzz
ツカツカとホテルの廊下を歩く二つの人影。
「まったく、あの三人は何を考えているんでしょう!」
「まあまあ秘書さん、父も無事救出できたことですから……。それに元を正せばボクの不甲斐無さが起こした事件ですし……」
「こっちは必死で捜索に救出活動だったというのにどっから持ってきたのか水着にサングラス!浮き輪!メロンソーダフロート!もう一発言ってやらないと気が済みません!」
(タフだなあこの人……)
深夜にも関わらずバン!と勢いよくドアを開けて入る。明日からの日程が決まりGWにはどうにか帰国の予定になった。そのことを告げに行こうと思ったら昼間のことを思い出し再び燃えているのだ。
「三人とも!ちょっとお話がありま…す……」
「おやおや、これは羨ましいね」
抱き合ってぐっすり眠る四人がいた。まるで兄妹のように。
「くっ、これでは怒るに怒れないではないですか…」
「将来、こんな未来が来るといいですね。人種も存在も越えてこんな風になれる未来が」
「必ず来ます、来させます。私達はその為の存在です」
「消された歴史の中で睨み合っていた人間界と魔界。二度と『勇者』と『魔王』の関係にはなりたくないものだね。人間界と魔界のデタント、必ずさせなくては。生きている内に是非ともロリエルフやロリ魔族と結婚したい」
「やっぱり死んでください」
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