第54話 初めての海外

「こんちゃーす、でござる」


「遅い!」


パッカァーン!


「あいたあ!お師匠さま、缶カラ投げるのはあぶないでござる」


いきなり呼び出されて来てみればいきなり空き缶が飛んできた。ってコレ、ビールの缶でござる。こっちも朝から呑んだくれか……。頭に当たったビールの缶を分別ゴミ箱に入れて買い物してきたものは冷蔵庫に詰める。


「だいたい遅いも何も、油揚げ買ってこいって言ったのお師匠さまでござる。ちゃんとスーパーが開く時間に入ってまっすぐ油揚げ買ってそれ以外にも色々買ってきたのに。どうせAmazonくらいでしか買い物しないから」


「こんくらい避けなバカ弟子。雪女にもらったヤツがなくなったからしょうがないのさ。だいたいおキツネさまにお供え物の一つもなくてどうすんだい」


「はいはい。ほんで、ご用件は?」


「お前、来週中国な」


「は?」


何を言ってるんでござるかこの酔っぱらい。中国? 誰が? 吾輩が? なんで?


「は?じゃないの、中国なの。チャイナだよChina」


「Chinaくらい分かるでござる。いやいやいきなり言われても意味が分からないですしおすし」


「武蔵野のババアに聞いたのさ。四神剣、お前らロイヤルセブンが持ってんのをよろしく思わない連中がいるんだっとさ」


「あー、それはまあ、本来は中国の国宝でござるからそれは当たり前のことなのでは?」


四神剣。かつて古代中国において四聖獣が人間に授けたとされる神剣。その四本の神剣、この現代においては謎の仮面の戦姫たち【ロイヤルセブン】が有している。


「『聖なる剣を、得たいの知れない女共が持つなどあり得ない。ましてや中卒なんか論外だ!』って言うんだよ」


「どなたが?」


「国家首席んとこのおぼっちゃんだっとさ」


「論外だって言われましてもねえ……。そりゃそうかもしれないけれど、なんも知らないで送られてきた身にもなってほしいでござる」


それも宅急便なのだから驚きだ。武蔵野の息が掛かってるなら、黒塗りの車で黒スーツを着た黒いサングラスのまさにいかにもなスタッフが持ってきておかしくない。さらに中国政府、日本政府は吾が輩の個人情報を持っている。これがどういうことを意味するのか。


「国宝を国外に持ち出すことはおそらく密談だった。メディアにもネットにもまるで露出していないしリークの話も出てこない。徹底的な情報統制だ。おそらくそのあたりも気に食わんのかのう」


「言うてそのおぼっちゃんもまだ政治家でないんでひょ?政治家でもないのに政治的取引に不平言っても吾輩だって外野ですし。ほいで、吾が輩が中国に行ってどうしろと?」


「『決闘だ!』だそうな。ま、せいぜい頑張るがよい」


「そんなvip相手に決闘なんかして怪我でも負わせたら…」


「まー、怒られるんじゃないかねえ?」


怒られるで済むわけないでしょう。ダメだこの酔っぱらいなんとかしないと。下手に勝っても国際問題もいいとこでござる。


「ということでハイ、パスポート。航空券は空港で案内人が手続きしてくれるってから行ってこい」


「え?ビザは?というか勝手にパスポート発行とか、ええ?」


「旅行扱いだから日本だからいらないとかなんとか。って私にそんなこと聞かれても分からないよ。化け狐には国籍も国境も関係ないさねえ」


祝! 中国行き決定!


「そんなイッ○テQじゃないんだから」


「珍獣ハンターで言うならお前が珍獣側かの、アリクイ」


「アリクイ?!」

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