第52話 自覚がないこともない

「おはようございまー、って酒くさっ!」


この匂いは前科三犯。朝起きてリビングに出るとすぐにアルコールの匂いが鼻に着いた。見ればニートが朝から日本酒一升瓶を開けているではないですか。吾が輩もニートでござる。


「ああ、タケちゃんおはよ~。庭の桜が見ごろよ~」


何をやってるでござるかこの呑んだくれニート。


「朝っぱらから桜を肴に日本酒とは…、おっさん臭いでござる」


「ようやく暖かくなってきたからねえ。縁側の方の桜も咲いてるといいわねえ」


こたつごと窓際に寄せ、こたつに入ったままアルミサッシにもたれかかって桜を眺めている。ぐい飲みを揺らすその姿はもう完全におっさんか。渋いとか渋くないの話ではなくて加齢臭がするでござる。


「妹君の姿が見えないでござる」


「何言ってんのよう。春休み終わって今日から学校よう」


「もう中学三年生か。もうちょっと成績がよくなるといいのですが」


「ちぃーっす、ってくっさ」


「あれ、姉上」


「よう、我が弟よ。大学はまだ春休みでな、しばらくこっちでゴロゴロしようかと思ってたんだけど……」


眼の前には朝から酔っぱらってこたつでゴロゴロしている駄目人間。


「ああはなりたくないな……」


「でござる」


「でへへぇ~、イイ感じにお外の空気が冷たくめ気持ちぃ~」


結局暇人が三人、こたつに入ってゴロゴロ。季節外れの寒の戻りによってなかなか片付けられないこたつ。しかし昼間になれば暖かく春の陽気。


「そういやーお前、前科三犯になったんだって? 瑠姫のヤツむくれてたぞ。また女たぶらかしてるって」


「なんもやってないでござる。いやだからこそでござろう」


「?」


「この子ねえ~、あのシオン・アスターと銀座デートして同じ部屋に入院したのよ~」


「ばっ!お前マジかよ!あの怪事件でか?!」


「ほんで妹君にサイン頼まれてたけど、当のシオン・アスターは病室からバックレかましたでござる」


庭に植えられている、小さな桜が揺れる。気温が上がり始めようやく八分咲きといったところか。吾が輩も来年で成人。今ごろには三人で桜を肴に酒を呑めるでござるなあ。


「でアレか、また例のごとくキスマークもらってきたんだろ?」


「それは二犯のほうでござる。ライブの時の特別招待者限定盤をここで意気揚々と開けたら、CDにベッタリ」


「いいねえいいねえ、ヤるじゃんこの色男!」


「姉上もだいぶ酔いが回ってきたでござるね……っていうかいつの間に呑んで」


「ようしお前も呑め!」


「未成年でござる」


「あにい!姉の酒ァ呑めねぇってのか?!」


パワハラでござる。未成年飲酒ダメ、絶対。


(あー、もうくっさ。アルコールの匂いだけで酔いそうでござる)


「じゃあ、混ざってもいいかしら」


?!


「で」


「で」


「出たー!シオン・アスターだー!」


「会長のおばあちゃんから酒豪の人がいるって聞いたから、適当に買ってきました」


「『緑川』! 『獺祭』! 『黒龍』! マジか!マジか!」


「わーお」


「ちょっ、シオンさん!カレンさんがブチギレのままあなたを探し回ってるでござる!早く戻って!」


「もう戻ったわよ、ホラ」


言うと左の頬を見せた。真っ赤な手のひらの形が痛々しく腫れ上がっているでござる。ケジメを着けたということなのだろうか。


「え、なにそれ…」


「『本当は八つ裂きにしてはりつけにして火にくべてやりたい』らしいけど、ギリギリ仲裁が入ったのよ」


「は、入らなかったら?」


「そのまま殺り合ってどっちかが死んでたわね」


ヒイ!神剣持ち同士が本気で殺り合ったらいったいどんな被害が出ることやら………。


「終わったことはどうでもいいじゃねえか!女たぶらかしてるカピバラなんかほっといて呑むぞ!」


「「おおー!!!」」


「カピバラ?!」


ひるま から のんだくれ が ふえた !


わがはい は あたま を かかえた !

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