第45話 ファング
なにやら吾が輩達、何者かの罠に嵌められた様子。
「誰もいない、抜け出せない、終わらないわね」
「問題は幻覚なのか迷宮なのか、でござる。前者なら連れ去られている可能性が微レ存」
無人の銀座三丁目をひたすら歩くもいつの間にか元の場所に戻ってきている。ずっと同じ場所を歩かされているのだ。しかし誰かが襲ってくる気配は感じないでござる。
「スマホは…圏外でござる」
「そりゃそうでしょ、繋がったらクソマヌケよ」
まあ、確かに。助けを呼ばれてハイ解決、じゃわざわざこんなことをする意味がない。こんなところに閉じ込める理由とは?
「今日シオンさんが出掛けることを知ってる人は誰かいますか?」
「マネージャーだけよ。基本的に二人でしか行動しないから」
「うーん、まさかストーカー?」
「…!こんなこと出来るストーカーなんてそれこそ変態ね。見なさい」
何かに気付き、指差すもマネキンが立って並んでいるだけでござる。すいません意味分かんないんですけど。
「マネキンですね」
「あんたバカ?そっちじゃなくてガラスの方よ」
ガラス? 少し離れてお店のショーウィンドウをじっくり観察する。これが一体なんだというでござるか? ただの大きな窓ガラスにしか見えないでござる。
「うーん?あっ!映り込んでいるでござる!」
「呆れるわ。あなたそれでも八人目なの…?」
なんとショーウィンドウのガラスに沢山の人が映り込んでいた。つまり吾が輩達は鏡の世界にぶっ込まれたということでござ…らないな。いや待てちょっとおかしい。
「それでも説明つかないでもござる。ここが鏡の世界なら現実世界と同じ街並みになるはず。でもさっきからまったく同じ場所を歩かされているワケでして」
「繋がってるかどうかは、やってみれば分かるわ」
「えっ?ええええええ!!!」
彼女は道路標識を片手で鷲掴みにするとそのまま引っこ抜いた。鉄の軋む音が生々しく響き、根本の割れたアスファルトから土がボロボロと崩れ落ちる。
「せいっ!」
道路標識を力任せにショーウィンドウへ叩きつける。一枚板のガラスはひとたまりもなく大きい穴を開け、粉々に砕けてしまった。割れる音で耳が痛い!
「ふん、繋がってるじゃないの」
わずかに残ったガラスの映り込みを見ると向こうのショーウィンドウも割れたらしく大騒ぎになっている。
「ちょっ、何やってんでござる!怪我人が!」
「ハッ! 今ここを生きて出られるかどうか分からないのに他人の心配なんて知ったこっちゃないわ」
「そういう問題じゃないでしょう!」
「そうだ!そうだ!何やってんだキサマァ!」
「いやあーた誰?!」
傍若無人な振る舞いに我慢ならず声を荒げると、建物の脇から見知らぬ男性が出てきた。スーツにコート、革の靴。ビジネスマンに混じって尾行されたのでござるね。手に持っているのは…ナイフか。
「あんた誰」
「私はサード・アイの魔術師である!この間の屈辱のリベンジに来た!いや私のことなどどうでもよろしい!一般人がたくさん怪我して流血沙汰になってるではないかぁ!」
サード・アイの魔術師がこの間のリベンジに来た?この間の、ということはワンメイクライブのことを言ってるでござるか。まさか他にも仲間がいて取り逃がした?いやでもこの人今自分のことどうでもいいって。
「サード・アイ社訓三ヵ条オオオ! ひとぉつ!一般人には被害を出さない! ひとぉつ!必要以上に物を壊さない! ひとぉつ!ターゲット以外に血を流さない! ……そこの青年には悪いが一緒に行動してしまっている故、どうしても巻き込むしかなかった。申し訳ない」
「お、お気になさらずに?」
サード・アイに社訓なんてあったんだ……、国際犯罪組織なのに会社なんだ………って感心してる場合じゃない。やっぱり罠に嵌められてたんでござる。
「本当はそろそろ後ろからドスッと刺し殺してサッと現実世界へ返して退勤するハズだったのだ。今日は早番でな。それをシオン・アスター!!己のためなら他人の流血をも厭わぬその身勝手な立ち振る舞い、万死に値する!死ね!!!!」
ビジネスマン魔術師が持っていたナイフを抜き放ち、襲いかかってきた!
「身勝手?上等ね。そもそも関係ない私を指名して襲ったのはアンタ達よ?割ったガラスの仕業も怪我人も何もかも、ぜぇーんぶあんた達になすりつけてあげる……」
ゆらり、とゆっくり歩き出す。彼女が歩き出すと、とてつもない寒さが辺り一面を蹂躙し、あっという間に氷の世界になってしまった。彼女が歩いた場所全てが氷漬けに…あっダメだ、ナレーションしてる余裕ないでござる!さ、寒い!寒すぎる!垂れた鼻水まで凍ったでござる!
「な、なんだこれは!」
「シ、シオンさん…! あなたはいったい……!」
「変、身」
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