第39話 青龍
つい最近まで続いていた寒波はなんとやら。もう暖かく昼では20度近い日がちらりほらり。厚着していると額にじんわり汗が浮かぶ。
「しかしダイエットはしません。なぜなら太っていることが吾輩のジャスティス、吾輩のアイデンティティなのだから」
森に入ってしばらく進むとお師匠さまのログハウスが見える。今日は細心の注意を払いながら来ているでござる。また間違って尾行されてたら目も当てられない。
「こんにちはー。お師匠さまー」
「いぃーま居留守でぇーす」
「まったく、何言ってるんだか…」
鍵を開けて勝手に入る。合鍵はお師匠さまの本物をちょっと拝借して勝手に作った物。たまに買い物して冷蔵庫の中身を足しに来ているでござる。おっと、こたつむりがここにも一匹。
「お師匠さま、あんまりこたつで寝てると風邪引くでござるよ」
「大丈夫大丈夫、ここ50年くらいは引いてないから…ってお前なんだその物騒なモンは」
「お師匠さまが吾が輩のことを喋ってくれたおかげで、何故か冬将軍からのお詫びの品が武蔵野グローバルコーポレーション会長から届いたでござる」
「記憶にございませんだみつおなはなは」
この…!
「お師匠さま、ちょっとこの剣を見てほしいでござる」
「剣?」
特別に用意された袋から出し、剣を抜く。刀身と装飾のちぐはぐさとその大きさから異様に目立つ宝玉。
「この剣、冬将軍がくれたんでござる。しかし、本人の手紙も添えてありましたがこの剣については一切触れられていませんでした。そして一昨日、ある歌手の襲撃事件の際にこの剣を抜いたのでござる」
「ああ、アレやっぱお前だったのか。テレビでアホみたいにやってるよな。で、良いものもらったから自慢しに来たと」
「……この剣、間違いでなければ刀身の硬度が変わったでござる」
「なに?」
お師匠さまの顔が変わった。だらけただらしない表情は一変して緊張の糸が張りつめる。普通、どんな物質でもその硬度が変化するなんてのはあり得ない話。だけどあの時確かにそういう感触だったでござる。
「ちょっと見せてみろ」
「はい」
一度鞘に納め、手渡した。が、お師匠さまが柄を掴んだ瞬間激しく火花が散りまるで磁石の同極同士がお互いを拒絶するかのように吹き飛んだ。
「っ! いっつー」
「おおおおおおおお師匠さま!」
「落ち着けバカたれ。結界だ、なかなか味な真似をする…」
「結界?」
「お前以外が扱えないようにしたんだろう。冬将軍のヤツめ、なに考えてんだ」
「取り敢えず、冷やすものを持ってくるでござる」
スーパーに行く度サッカー台から少し多めにもらっているビニールの小さな袋に水を入れ、冷凍庫から氷を出しそこに足す。
「はい、お師匠さま」
「うむ」
まさか剣にまで結界が使えるとは。本当に冬将軍はどういう意図があってこんなことをしたでござるか。
「私が持てないんじゃどうしようもない。その硬度が変わったというのを再現できるか?」
「ウィ。来る前にも一度出来るのか試してみました」
再び剣を抜き、ゆらりゆらりとゆっくり左右に、脱力する感覚で振る。すると刀身がまるで竹のようにしなやかに曲がるのでござる。
「ほーう、なるほどな」
お師匠さまが刀身を人差し指で弾く。音叉によく似た音が響く。
「こりゃお前の能力に反応してるんだよ」
「能力に?」
「そ、チカラの入れ具合で柔らかくも硬くもなる」
なるほど。偶然それがあの時起こったと。ということはつまりこの剣やっぱり普通の剣ではないでござるね。
「だが人間にこんなモノを打つ刀鍛冶はいない。いや、そもそもこの剣は刀鍛冶のによるものじゃない」
「そんなバカな。じゃあ誰がどうやってこれを造ったって言うでござるか?」
吾が輩動画でしか知らないでござるが、刀剣類は専門の鍛冶職人が鉄を文字通り『打って』その形にするもの。それを何もしないで剣を造るなんてそんなバカな。
「やったのは、青龍だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます