第38話 感触
結局のところライヴは無理矢理続行され、日付を越えて夜通しのバカ騒ぎになりましたとさ。
「こちらは異常なし」
『こちらも異常なし』
途中で抜けた吾が輩はフルアーマー姿のまま周囲の警戒に当たることになったでござる。ま、しょうがないっちゃしょうがない。突然いなくなったことがバレたら正体もバレるでござる。
『ま、サード・アイの連中はやったから今さら何が来るってワケじゃないんだけど念のためにね』
「せっかく抽選当たったのに…」
『ぼやかないの』
『ライヴ、終わったみたいだよ。ござるくん今どこ?』
「外の天井です」
『すぐに観客が出てくるから裏手に回って紛れながら戻って』
「了解」
はあ…。これじゃ抽選の特典もまるで貰えなかったし、ライヴは途中から抜けてるし。
「もう明け方か…」
天井から見える日の出がバカ騒ぎの終わりを告げる。一筋の光が仮面の下に滲む。そういえばロイヤルセブンで会ってない人達が来ていたみたいだけど、交代にも休憩にも来なかったでござる。タフ過ぎワロチ。
「レイミさん、ただいまでござる」
「ああ、おかえりなさい」
「テロリスト達はどうなったんですか?」
「警察に引き渡したわ。あとは本来のスタッフに任せて私達も帰りましょ、仕事は終わりよ」
長い夜は終わった。剣の扱いは初めてだったが難なく剣の初陣はこなした。
(久しぶりにお師匠さまのところに行かなければならないでござる。気のせいでなければ、あれは…)
一晩明け、ほとんどのメンツがサロンに集まっていた。って言っても皆お風呂入ってるだけなんだけど、一応ヒーローモノのイベントの後なのでここはカッコよく言っとかないとねー。
「『シオン・アスター雄叫び!命の恩人にザケんじゃねーわよ!』だって」
「見事にゴシップのエサですな。まさか命を狙われていることを自覚してないとは思わなかったでござる」
「あの女は命が狙われてようが何されようが関係ねーよ」
週刊誌を片手に天然温泉に浸かる。吾が輩が飛び出たその瞬間からの映像が朝のニュースから報道され続け、シオンさんに歩みより解散を提案したら怒鳴られ足蹴にされたシーンまでが全国に流された。そしてこうして夕方にはあちこちで好き勝手に書かれている。
『申し訳ないが今日はもうお開きに…』
『ザケんじゃねーわよどけ!今一番盛り上がってるのよ?やめるワケないでしょう!ねえみんな!!!』
『んほお!!!』
「あーあ、ツーショット…」
「蹴り入れられてまだそんなもん欲しいのか?」
体を洗ってから湯船に入る。普通はテロの現場をそのまま使うなんてあり得ないでござる。スタッフもよくやるなぁ……。
「LIMEも電話番号も教えてもらったんならいいじゃねーの。その内グループ作るか」
「ん?ござるくん、肩怪我してる…?」
「ええ、少し。しかし鎧の上からだから痕がついただけになったでござる」
「ああん?鎧の上からやられただ?お前もまだまだだなぁ、鍛え方足りねーんじゃねーの」
「違います、あの剣士は能力者だったんですよ。雑魚ですが」
能力者?
「ああ、ござるくんは知らないっけ。いわゆる超能力者。悪いことに使うのがいるってことよ」
「なーるへそ。チカラの無駄遣いでござるな。今ごろ秋葉原は大騒ぎだろうなー」
「あ、帰りにお土産あるから忘れずにね」
「え? お土産?」
「新曲のCDもらってなかったでしょ? ちゃんと名前入れてサインもしてもらっといたから」
「やたー!」
「童貞のクセに裸の女の前で別の女で喜んでやがる。失礼なヤツだ」
貰い損ねたともう諦めていたでござる! おほーい!やったね!家に帰って早速開けりゅぅぅぅぅぅ!
「ただいま~でござる」
「おかえりー。お兄ちゃん大変だったね」
「あら、お帰りなさい。怪我なかった?」
「ないけど眠いでござる。なんのためにホテル取ったのか分かりませぬ」
バリバリ!ヤメテ!やってる場合じゃない。こたつに広げて超自慢でござる!非売品の激レアも激レア! 世界で10枚しか存在しない特別装丁の限定盤!
「そして! これが! 特別招待者限定名前入りサイ、ンC…D…?!」
「お兄ちゃん、これ口紅…」
「わーおこれは生のキスマーク」
アルェェェェ?!
「フフッ」
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