第34話 平坦だからといってお触りしない価値がないなんてことはない
「ただいまー」
「おかえりーでござる」
「あれ、お母さんは?」
「いるけど?」
首だけ出ている母上の本体に帰ってきた妹君がいそいそとこたつに入る。こたつのヌシは寒さが戻ってきたこともあり、毎日毎日起きてきては着替えもせずにこたつにすっぽり引きこもっているでござる。晴れれば暖かいのに。
「そういえば妹君、この間テストだったでござろう。そろそろ戻ってくる頃かなーと思うんですが」
「ナ、ナンノコトカナー」
「妹君……」
諦めたのか諦めてないのか、気まずそうに差し出された答案用紙に書かれた点数はこれは見事に無残でむごいものだった。平均しても30点にも届かず、一番低いのは7点。妹君が残念なのは絶壁まな板のみならず、学校の成績もなかなかポンコツでござる。
「吾が輩ですら350点切らなかったのにどうしてこうなった」
「お兄ちゃんは頭いいじゃん。勉強まったくやってなくてそれなんでしょ?」
「まったくやってないどころかゲームして深夜アニメ見て学校にいる間は寝てたでござる。お受験?なにそれ美味しいの?」
「世の中間違ってるよー!誰かこの世界壊してー!」
幸いながら何故か吾が輩は地頭が良いとか天才とかそういう類いでござる。おかげで遊びっぱなしの人生。まったくもってありがたい。中学受験のときも無勉強で通した。なに?学歴?そんなんあとからいくらでもお金で買えばいいでござるwwwとか言ってたら死亡フラグになりそうだから回避。
「お母さんが学校行ってた頃はどうだったの?」
「私?私は全教科0点だったわよ(ドヤァ」
「…えっ?」
流石に耳を疑う。そんなバカな。いくらなんぼなんでもそれはないでござる。まさか全教科の答案用紙で解答欄一個ずつズレたとかそんなんやらかすはずないし。
「インフルエンザかなにかにでもなったでござるか」
「冬はこたつにいるからそもそも学校行ってないもーん。11月から3月まで自主休校でーす」
「「ええー…」」
確か母上は大学まで行っているでござる。よく卒業できたなこの人……。まずどうやって入学したんだ……?そんなんじゃ成績も内申書もよろしくないはずでござる。
「取り敢えず200点切ってる妹ちゃんはお小遣い減額ね」
「ええー!0点に言われたくない!」
「妹君ファイト!あ、それと今度の三連休はお兄ちゃん出掛けますからよろしく」
「なにそれ」
「シオン・アスターのライブ特別招待券当たったので行ってきますですハイ」
「ええー!わたしも応募したのに!」
「ぶっちゃけ吾が輩も外れたと思ってたでござる。こんな直前に届くなんて思わなかったし」
「お兄ちゃんばっかりずるーい!」
「妹君はテレビとBDプレーヤーが届くでござる。設置と設定までやってもらえるんだからいいじゃないですかー」
「ついでにリビングのテレビも……」
「買いませんぞ」
「くっ」
なにどさくさ紛れに買ってもらおうとしてるでござるか。このテレビ、去年買い換えたばかりの4Kテレビでござる。しかも50インチ。さらに支払いは例のクレジットカードで。人のお金でこれ以上は一般家庭には贅沢品でござる。
「じゃあじゃあ部活のユニフォームも買って!!!」
「妹君、言うほど成長してないから必要ないでござろう。身長も体格も変わってないのに買っても仕方ないと思われ」
「新しいデザインのが欲しいの!」
「妹ちゃんは新体操だけが取り柄だもんねえー」
「母上がさりげなくdisってるでござる」
「むきー!これから成長するもん!」
果たして妹君のお胸に未来はあるのか。いや、ない。貧乳だって立派なお胸なんです、偉い人にはそれが分からんのです。
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