第26話 暴力とは

目が飛び出る、とはよく言ったものだ。驚けばみんな目を見開く。テレビの配送手続きやら保証の手続きやらを終えて11時。まだ早いけどフードコートに寄ってお昼にしてもいいかな、と考えていたでござる。


「まあまあ、昼飯でも食いながらオハナシしようか?」


がっちりと腕を組まれ、逃げられなくされてしまった。普段ならおうふ、きょぬーおっぱいやーらかいなーとかやるところでござるが残念。ガチのホールドでござる。そんなこと言ってる余裕はない。


「任意保険はしょうがない自分で払うからさ」


「これ昨日の日付ですな。姉上、ちゃんと大学行ってる?」


「行ってる行ってる。つってももう三年も終わりで取る単位なんてねえのよ。就職先も決まったし特にやることがない」


なるほど、だからPS4でござるか。たくさん遊べるもんね。いやなるほどじゃねーよ。


「昼飯は何にする?」


フードコートに到着。まだお昼前だからまばらに人がいるだけでどこでも座れそうでござる。


「吾が輩はカツ丼が食べられるならどこでも」


「私はマック」


「わたしもマックー」


「はいマックで決定」


「マジョリティの暴力でござる」


吾が輩デブでござるが、マックはどうにも好きになれないでござる。どうしてもあの匂いが苦手ですな。ゆっくりダラダラ出来るのはいいけどそれならまず出掛けないでござる。

それぞれ好きなものを頼んで空いているテーブルに陣取る。と同時に車のカタログと先程の見積書が姉上のバッグから現れる。


「あたしこれに乗りたいんだけど」


「いきなり大きいのは無茶なのでは?」


「お兄ちゃんもそこそこ大きいの乗ってんじゃん」


「うっ」


「国産メーカーのデカいヤツだろ?これとたいして変わんねーよなあ?」


「ぐはっ。いや、理由ならあるでござる。コンパクトカーじゃ吾が輩乗れなかったでござる」


「ダイエットしろデブ」


そう言われては身も蓋もない。がさがさと包み紙を広げてもそもそと食べ始める。


「姉上、テレビはフェイクでござるか。本命はこっちだ」


「お兄ちゃんの車もいいけどこっちもいいね。また友達に自慢できるよ」


「また?」


「この間の大雪のときにクラスの子も一緒に迎えに来てもらったの」


「はい未成年拉致監禁誘拐婦女暴行罪大人しく出頭しろ」


「いやいやいやいや。クラスメートがいるなんて聞いてなかったから!」


再び掛けられる冤罪。


「キャー!」


そして悲鳴。


「ん? 悲鳴?」


「向こうの奥からだな。うっせーなー、人がせっかく昼飯食ってるてーのにどこのバカ女だ」


「姉上は口が悪すぎるでござる。まあ悪ふざけもよくないけど……」


「キャーー!」


「だ、誰か!」


「チッ、うっせーなー。ってなんだ? なんか奥から走ってくるぞ? マナーも守れねーのかよ」


喋ってる内にも聞こえる悲鳴。それと間もなく逃げるように走る何人かの客達。もくもくと食べ続ける妹君。ハムスターかねキミは。


「なんだか様子がおかしいでござる」


「空気悪くなったな、さっさと食って帰ろうぜ」


もはやゆっくり食べながら話す雰囲気ではなくなってしまった。もう帰ろうと一気に頬張りそれこそハムスターの如く膨らませながらジュースを一気飲みし、席を立ってエスカレーターを降りようととしたその矢先。


『えー、テストテスト。このデパートは我々が占拠した。抵抗する者は殺す』


黒ずくめの武装した目出し帽の男が、お年寄りのおばあちゃんの手を引きながら階段から現れた。そして拡声器で宣言する。恐らく人質なのだろうが、エレベーター使わせてあげなよと脳内ツッコミをする。


(日本男児なら誰もがしたことある、学校で退屈な授業中にテロリストが来る展開キタ━(゜∀゜)━!でござる!吾が輩の無双伝説の始まりキタ━(゜∀゜)━!でござる!)


あれっ、でも家族の前じゃヘシン!出来ないでござる。吾が輩の無双伝説コネ━━('A`)━━!!!

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