ラブラブ大作戦再び

 ゲームセンターで遊んだ後は、今度はカラオケでおもいっきり歌った。エリカちゃんはカラオケにも来たことが無くて、機械の操作もよく分かっていなかったけど、誰かが歌っている時はその歌に耳を傾けて、自分が歌う時には奇麗な歌声を披露してくれた。

 エリカちゃん、初めての連続で戸惑いながらも、ちゃんと楽しんでいる様子。これでこそ、壮一と琴音ちゃんラブラブ大作戦を大幅変更した甲斐があるというもの……


「あの、春乃宮さん」

「ん?なあにエリカちゃん?」


 琴音ちゃんが歌っている最中、エリカちゃんが他の誰にも聞こえないような小さな声で、私に話しかけてきた。


「何か気になる事でもあるのですか?さっきから風見さんや倉田さんの事、やたらと見ていますけど」

「え、アタシそんなに様子がおかしかった?」


 そりゃ確かに壮一と琴音ちゃんをもっと仲良くさせたいなっては思っていたけど、そんな態度に出てしまっていたのか。だけどエリカちゃんは、慌てたように首を横に振る。


「いえ、おかしいとかじゃなくて。本当にふと、そう思っただけです。何となく、春乃宮さんが二人の事を気にかけている気がして」

「エリカちゃん……よく見てるんだね」

「いえ、そう言うわけでは……人の顔色をうかがう事が多いので、何となくそう言うのが分かるというだけです」


 エリカちゃんが察しが良いのは、ちょっぴり悲しい理由だった。きっとこの子、御門さんやお母さんの顔色を窺って生活をしているのだろうな。その御門さん達は誰かの顔色を窺うとは無縁の生活をしているというのに、何エリカちゃんにだけ窮屈な想いをさせているのだろう?


「あの、もし悩んでいる事があるのなら、力になりたいんです。私にできることなんてそんなに無いですけど」

「そんな気にしなくていいよ。これはアタシの問題なんだから……」

 と思ったけど、ふと思い直す。せっかくエリカちゃんがこう言ってくれているのだからせっかくだから協力してもらってもいいかも。その方がきっと、エリカちゃんも喜びそうだし。

「ありがとう。それじゃあ後で、ちょっとだけ協力してもらえないかな?」

「はいっ」


 明るい返事をするエリカちゃん。ちょうどそのタイミングで琴音ちゃんが歌い終わって、今度はアタシにマイクが回ってくる。曲のイントロが流れ始めて立ち上がると、空太がボソッと呟いてくる。


「あの子にいったい何をさせるつもりなの?」


 地獄耳め。こっそりと話していたはずなのに、どうやら空太には筒抜けだったみたいだ。だけど、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ、簡単な事をお願いするだけだから。で、その時はアンタも協力してよね。


 意思表示としてウインクをすると、どうやら伝わったみたいで軽いため息をつかれた。まあ空太の事だから、なんだかんだ言ってもちゃんと手伝ってはくれるだろう。

 アタシは一度諦めていたラブラブ大作戦が実行できるかもしれない事にワクワクしながら、歌い始めるのだった。




 ひとしきりカラオケで歌った後、あたし達はラウンド壱を出て、向った先は近くにあるオープンテラスの備わったオシャレなカフェ。この辺りでは定番のデートスポットなのだと、アタシは事前の調査で調べをつけていた。

 そう、臨海学校が始まる前から、アタシはわざわざこの辺りのデートスポットについて念入りに調べていたのだ。その理由はもちろん、壮一と琴音ちゃんをデートさせるため!この臨海学校は、そのために存在すると言っても過言では……


「いや、過言だから。言ってることが無茶苦茶すぎる」

「心を読まないでって言ってるでしょ!」


 カフェの前で、アタシの心の声にツッコミを入れてくる空太。本当にこの子、エスパーなんじゃないだろうか?

 まあ空太の事は置いておくとして、アタシ達は五人全員でカフェに来たわけで。本当なら壮一と琴音ちゃんを二人きりにしていい雰囲気を作ってあげようって思っていたんだけど、さすがにこの人数ではそれも難しい……と、思うことなかれ。

 店の入り口の戸を潜ろうと言う時、アタシはタイミングを見計らって、思い出した感を装って叫んだ。


「あ、そうだ。アタシ服を買おうと思ってたんだった!」


 とたんに皆、足を止めてこっちを見てくる。


「服?そう言えばこの近くにブティックがあるって聞いたっけ。それじゃあどうする?カフェは止めておいて、そっちに行く?」


 壮一がそう言ってきたけど、アタシは首を横に振る。


「ううん、壮一はここでお茶でも飲んでて。アタシと……あとはエリカちゃんで行ってくるから」

「え、私ですか?」


 エリカちゃんがビックリするように言ったけど、あえてそれをスルー。代わりにそっと壮一に耳打ちをした。


「エリカちゃんと一緒に服を買いに行きたいの。いいでしょ?」

「ああ、そう言う事ね」


 エリカちゃんに可愛い服をプレゼントする……と、壮一は思ってくれたことだろう。だけどアタシの真意は別の所にある。素早くエリカちゃんの手を取り、今度は空太の方を見る。


「空太、あんたも付き合ってよ。荷物持ちお願いね」

「アサ姉……そう言う事か、分かったよ」


 空太は一瞬でアタシの意思を読み取ってくれたらしく、肩を竦めながらも承諾してくれる。


「ありがとう。と言うわけで壮一、琴音ちゃん。アタシ達ちょっと行ってくるから、二人はここでゆっくりしててね。二人きりで、ゆっくりしててね」

「分かった。三人とも、迷わないようにね」

「旭ちゃん、またあとでね」


 壮一と琴音ちゃんに見送られながら、アタシは空太とエリカちゃんを連れて、カフェを離れていく。

 ふふふ、上手くいった。壮一と琴音ちゃんのラブラブ大作戦、ようやく再開だよ!

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