EXランク依頼『ミイラの群れから街を守れ!』

「って言う状況なんだ」

 は朝日と共に突然現れた。

 高さ50mの石で積まれた三角の建物。歴史家や古代史を知る者がそれを見れば、ピラミッドと呼称する建造物。

 石を崩さない為の空間固定ホールド。移動先の安全を確保する長距離探査ビヨンドサーチ。そして高重量を一気に移動させる空間転移トランスポート。これら三つを同時に展開し、ピラミッドは顕現する。

 最初にそれを発見したのは、オータムの門番だ。夜勤も終わりそろそろ交代か、と伸びをしていたところに突如見たこともない建物が現れたのだ。思わず唖然とするが、それでもプロの矜持かすぐに我に返って上司へと報告を行う。

 報告を受けた上司が双眼鏡で建物を見ると、そこからこちらに向かってくる存在が確認できた。包帯を巻き、手を伸ばしてこちらに向かう人型の存在。

 ミイラ。古代文明の遺跡で出てくるアンデッドモンスター。それがオータムに向かっているのだ。

 事態を重く見た衛兵は鐘を鳴らして門扉を閉じる。この判断があと30分遅れれば、ミイラは街に入り多くの被害が生まれただろう。オータムの四方の門が閉ざされ、その事はすぐに街中に伝わる。ミイラたちは街を囲むように布陣し、町の入り口を探すようにさまよっているという。

 そしてオータム町長の命により、街中に緊急避難命令が発令された。『事態が収まるまで、町から一歩も出るな』と言うランクの避難命令が。


◆      ◇      ◆


「――って言う状況なんだ」

「ふーん。ピリピリしてると思ったらそー言う事だったのね」


 エリックは今朝聞いたことをクーに説明する。クーはあまり興味なさそうに頷いた。街中がバタバタしているのは疑問だったが、それが分かればもうどうでもいい。そんな感じだ。


「へっ! 要するに敵がたくさんいるって事だろうが。オレの拳で叩き潰してやるぜ!」

『うむ。確かにこれは正義の戦いである。【第五の誓い《フィフス・オース》】までの解放は約束できる』


 ネイラがワクワクするように拳を打ち合わせ、肩に乗ったカブトムシが思念で答える。無数の魔物をどう突破しようかと楽しんでいるようだ。


「ちな、数ってどれぐらいなの?」

「聞いた話だと、東西南北の門に各300体ぐらいミイラがいるとか。あとそれを指揮するミイラのボスみたいなのもいるらしいよ」

「はん、数が多ければいいってもんじゃねぇんだよ! それぐらい無双してやらァ!」

「相変わらずねー。ま、アンタならできるでしょ。がんば」


 熱血モードのネイラに対し、軽く手を振るクー。


「んだよ。来ねぇのか蜘蛛女」

「行かないわよ。めんどいし」

「僕も一緒に行って役立つことはなさそうなんで」

「大将も弱気だなぁ。ま、こんなおいしい戦いは一人で楽しんだ方がいいしな。行ってくるぜ!」


 軽く手をあげて移動するネイラ。


「でも門閉まってるんだけど、どうやって外に出るの?」

「門なんか拳でぶち破りゃいいだろうが?」

「待って。ネイラ本当に待って。それすると後が大変だから」


 必死にネイラを止めるエリック。トロールすら凌駕する重戦車ジャガーノートのパワーなら本当にできるだろうし、それをやられたら街の守りが瓦解する。


「だったら蜘蛛女! お前の糸で引っ張って壁を超えさせてくれ!」

「やーよ。バスタったらアンタ重いじゃん」

「根性出せよ!」

「なんでアンタの為にあーしが疲れないといけないのよ! 自分でやれ!」

「あー、もう。二人とも落ち着いて」


 喧嘩になりそうな気配を察し、止めに入るエリック。


「散り合えず冒険者ギルドに行かない? この関連で何か情報があるかもしれないし」

「情報? 例えばどんな」

「ミイラを倒す討伐軍を募るから、とかかな?」


 エリックの言葉はありえない話ではない。依頼主はいないだろうが、この事態が続けば流通が途絶えて街は枯渇する。食料があるうちに戦える者を編成するというのは策としては悪くはない。

 王都から軍隊が来ることを期待しているのか、現状は籠城を決め込んでいる。だがそれも限界があるだろう。それは兵站的な意味もあるが、人間の精神的な意味でもある。誰もが長期の環境変化に耐えうるような強い心はもっていないのだ。


「……ま、そんな所か。足並みそろえるのは苦手だけどな」

「ほーんとワガママね、暴力エルフ」

「お前が言うか、この自分勝手蜘蛛」

「だから落ち着いてって。とにかく行ってみよう」


 そして三人は冒険者ギルドに向かう。


◆      ◇      ◆


 一方その頃――

 オータム中央にある館。街の歴代町長が使用できる館の一室に街の重鎮が集まっていた。

 オータム町長。街の貴族を束ねる議員。国防騎士団長。商人ギルド長。そして――


「ああ、すみませんね。もう集まっていましたか」


 冒険者ギルド長。定刻より少し早めに来たのだが、それより先に全員そろっていたので頭を下げる。


「不愉快ですな。時は千金ですよ」

「いや、先ずなぜ彼がここに。冒険者などただの傭兵崩れではないですか」

「まあ、彼らも相応に戦力となるのですから……」

「使い捨てという事か。まあそれなら納得しましょう」


 容赦のない足の引っ張り合い。この事態を機に自分以外の組織を弱体化させようという気概が見えていた。


(やれやれ。面倒なことこの上ないな)

(街一丸となればまず勝てるだろうけど……これはなかなか)


 難航しそうな緊急事態対策議会の始まりである。

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