「んじゃ、秒で終わらせるから!」
「分かってると思うけど、そいつらはただの巨大カマキリじゃないから!」
「おっけー。だったら本気でいくね!」
「おうよ! サキュバス諸共吹き飛ばしてやらぁ!」
エリックの声にクーとネイラが頷く。同時に『本気』を出す二人。
「んじゃ、秒で終わらせるから!」
<
クーも高揚しているのか、その頬は赤く熱っぽい。舌先でちろりと唇を舐める様子は、見知っているエリックでさえ唾をのむほどだった。そのままクーは腕を振るい、指先から放出する糸で周囲を自らの
「あはっ、切ってもいいよ。もっと早く切らないと、捕まっちゃうよ」
エンプーサの呼び出したカマキリはクーの糸を切るように鎌を振るう。だが、その腕の動きさえも捕らえるかのようにクーは糸を放ち、少しずつ動きを捕らえていく。僅か一秒の攻防の末に、カマキリは身動き一つできないほどまで糸に絡み取られていた。
「変身! バスター! ヘラクレス!」
「【
ネイラの叫びと同時に、ヘラクレスと思われる声が響く。
ネイラの拳に、黒く光るナックルガードが装着される。
「【
ネイラのを守るように、黒の胸当てが宛がわれる。
「【
ネイラの腕と足に黒の甲冑が生まれる。
「【
ネイラの顔を隠すように、黒のヘルメットが形成される。
「【
今しがた生まれた兜に、大きな角が生える。
「我が名はバスターヘラクレス! 世に仇為す魔の一族を討つ滅ぼすため、ここに見参!」
そしてポーズを決めるネイラ。
「……やってる間に攻撃すればいーじゃんと思うのは、あーしだけ?」
「まあまあ、
「行くぞ!」
そして突撃するバスターヘラクレス。相手の斬撃を甲羅で受け流し、そのまま拳を叩きつける。圧倒的な防御力と圧倒的な攻撃力。まさしく
「成敗!」
「はーい。あんたが最後ね。おつかれちん!」
まさに秒殺。呼び出されたカマキリは、クーとネイラの手によってあっさり戦闘不能に追い込まれた。
そしてその矛先は、カマキリの主であろうエンプーサに向けられる。
「次はお前だ。降伏するなら痛みなく葬ってやろう!」
「――とか言ってる間にあーしが貰った!」
丁寧に宣告するネイラの横から、クーが糸を解き放つ。四方から迫るクーの糸。速度やタイミングの完璧。エンプーサは反応すらできずに糸に捕らわれ、
「大したものね、アラクネ。タイミングはバッチリだったわ」
糸に捕らわれたエンプーサの周囲の空間が切り裂かれ、血色の鎌が現れる。持ち手がいない鎌が空を舞い、クーの糸を切り裂いていた。
「ならばこれはどうだ!」
エンプーサが鎌を掴んだ瞬間に、バスターヘラクレスが走る。三歩目で地を蹴り、足を突き出すようにして飛び蹴りを放つ。圧倒的なパワーから生まれる蹴りは、岩をも砕く大槌の如く。
「その鎧、もしかして
ネイラの蹴りが直撃――すると同時に赤い霧のような姿になり、消え去るエンプーサ。霧はすぐに元に戻り、余裕の笑みを浮かべるサキュバスが二人を見降ろしていた。
「この程度かしら? 子供の遊びに付き合うのは飽きたんだけど」
「何その態度、あったまくるんですけど!」
「クソッタレが! ……おおっと、【
「……アンタ、それ着てるとき結構ストレス抱え込むんじゃね?」
エンプーサの挑発に、慌てて言葉を言いなおすネイラ。それをあきれ顔で呟くクー。
「それじゃ、そろそろ頂こうかしら。女は趣味じゃないんだけど――っ!」
余裕の笑みを浮かべるエンプーサは、背後から巨大カマキリに切られたことで顔を歪ませる。完全に予想外だったらしく、何があったかが分からない表情だ。
見れば、自分の呼び出した巨大カマキリがいた。その鎌についているのは自分の血液だろうか。何故こいつがそんなことをする? 私を裏切るはずがない。その表情がそう語っていた。
エーテルの流れを見る魔眼でそのカマキリを見て、どういう状態なのかを察知する。その瞳は、すぐにエリックを睨む
「ど、どうも。迷惑でしょうけど、操らせてもらいました」
睨まれたエリックは、謝罪するように頭を下げる。
<
「……貴方が操ったのね。どういう技かは知らないけど、私の子供を籠絡するなんて」
怒りの表情のまま、エンプーサは指を鳴らす。空間に穴が開き、そこから赤い鎌が出てくる。鎌はエリックを引っかける様にして、穴の中に引きずりこんだ。
「夢の中で溺れてなさい」
「エリっち!?」
「大将!」
「貴方達もよ。子供達が受けた痛みは、その胎で償ってもらうわ」
エリックが捕らわれて生まれた隙をつくように、クーとネイラの足元に空間の穴が開く。そこから伸びてきた赤い無数の手に捕らわれ、穴の中に引きずり込まれていく。
動揺さえしていなければ反応はできただろうが、時すでに遅し。
三人を封殺したエンプーサは、限界とばかりに近くの木にもたれかかった。。
「……血鎌に血霧化、血界門三連続。まったく血の使い過ぎね。おまけに私も子供達も痛い一撃喰らったし。たった三人なのに割に合わないわ。
まったく、ファーガストの嘘つき野郎には後できっちり請求しておかないと」
ため息をつくと同時に、よろけながら歩き出すエンプーサ。これ以上の魔力消費を押さえるため、ノーコストで移動を開始した。
館の建物が開き、サキュバスを迎え入れて閉じた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます