エピローグ:我が家
リーズとイングリッド姉妹に連れられて、エノーとロザリンデは自分たちの新居へと案内された。
リーズとアーシェラの家からは数軒分離れているが、隣にはイングリッド姉妹の家と、かつての仲間ツィーテンの妹フィリルが住む家の間にあり、なかなか楽しそうな配置だった。
その上家屋は二階建てで、壁にはきちんと漆喰が塗られ、屋根もオレンジ色のルーフタイルが施されている。見た目なら、村長の家よりも住み心地がよさそうだ。
「お~……これまたしっかりと作ったんだな。アーシェラの家のような木の家でもよかったんだぜ?」
「えっへへぇ~、二人が帰ってくるまで時間があったからねっ! エノーとロザリンデに気に入ってもらえるようにって、みんなで頑張ったんだよ!」
「あぁ、素晴らしいです。これが私とエノーの家だなんて……!」
「それじゃあ、家の中は私が案内するねー」
ミーナは服のポケットから家のカギを取り出して、喜びに震えているロザリンデに手渡した。
鍵をカギ穴に差し込み、木の扉をゆっくりと開ければ…………新居独特の木材の香りが、二人を包んだ。
「えっとね、こっちがリビングで、その奥が台所。ここは特に何に使うか決めていない部屋だから自由に使ってね。それと、二階は寝室と子供部屋があって、庭を挟んだところにお風呂があるよ」
「なんだここ、最高じゃないか! リビングから庭に出入りできるぞ! 空き部屋は何に使おうかな?」
部屋を見て回ったエノーの笑顔は、まるで子供のように輝いていた。
一方でロザリンデは、見ているうちに別のことに気が付いた。
「あら、なんだか家具に見覚えがありますね。これ、ひょっとして……」
「えへへ、家具はロザリンデたちの知り合いに、エノーの家から持ってきてもらったんだよっ!」
「俺たちの知り合い?」
なんと、家に配置してある家具は、王国にあったエノーの邸宅からわざわざ運んできたのだという。
あまりにも家に馴染んでいるものだから、エノーもロザリンデもすぐに気が付かなかったのだ。そして、その家具を運んできたのは、かつてエノーの家で働いていた使用人二人と、エノーを慕ってこの村に移り住んできたかつての部下たちだというのだから驚きだ。
「ははは、そうか……あいつらにもあとで謝っておかなきゃな」
「羨ましいですね、エノー。こんなところまで部下が付いてきてくれたなんて」
「あらあら、ロザリンデさん、そう焼きもちを焼かないでくださいな。かつてあなたのお世話をしていた神官さんが、たった一人でこの村まできて、今では村の神殿で一生懸命働いているのですよ♪」
また、エノーの部下たちだけではなく、かつて中央協会で働き、ロザリンデの身の回りの世話をしていたという女性神官が、なんとこの村に自分で小さな神殿を立てて、ロザリンデの帰りを待っていたという。
いずれにせよ、この後二人は、待っている彼らに顔を見せてあげる必要がありそうだ。
「エノーもロザリンデも…………自分たちは間違ったことをしてたって思ってたよね。でも、この村まで移り住んでくるくらい、二人を慕ってる人がいるの。だから、二人は絶対に間違っていなかったって、リーズは思うの。だからね、エノー、ロザリンデ、これからもリーズと一緒にいてくれる?」
そう言って、リーズは赤ちゃんを抱いていない方の手を差し出た。
この瞬間…………二人は、ようやく過去という名の重しが、その体から降ろされたように感じた。
「ありがとうリーズ、これからも友達でいよう」
「リーズ……私はあなたと出会うことができて、本当に良かった」
差し出されたリーズの手を、エノーとロザリンデが左右から包むように握った。
「おーっす、エノーとロザリンデさん! 二人の愛の巣を見た感想はどうだ?」
「ふふっ、その様子だととても気に入ってくれたみたいだね。積もる話もあるだろうけど、ご飯が温まったから、冷めないうちに食べに来てよ。二人の為に村に移り住んできた人たちも、君たちのことを待っているよ」
二人がリーズと握手をしていた時、玄関からロジオンとエプロンと三角巾をつけたアーシェラが入ってきた。どうやら、昼食の用意が整ったようだが、それを聞いて真っ先に反応したのは、やっぱりリーズだった。
「お昼出来たって二人ともっ! 早く食べに行こっ!」
「わわわ、ちょっとまて、そんなに引っ張るなって!」
「言われなくても行きますから、ね?」
握手をしたまま引っ張っていこうとするリーズに、エノーとロザリンデは滑稽なまでに慌て、それを見たアーシェラとロジオン、それにイングリッド姉妹が大笑いした。
片手だけで、勇者パーティー最前衛の二人を軽々引っ張ることができるとは、相変わらずリーズの力は健在のようだ。
「あれ? そういえば……?」
「ん、どうしたのシェラ?」
「ううん、なんだか前にも…………こんな風景を見たかなって思って、少し懐かしくなった」
リーズが二人を片手で引っ張っていこうとするのを見たアーシェラは、ふと既視感を感じた。
詳しく思い出せなかったが、かつて5人だけで冒険していたころに、似たような場面があったのかもしれない。
「リーズさん、あなたはアーシェラさんの手を引いてあげなさい。私の手を引いていいのは、エノーだけなんですから♪」
「そうだったねっ! じゃあシェラっ、ご飯にしようっ!」
「おっとと、そんなに慌てなくてもご飯は逃げないよ! 二人も荷物を置いたら僕たちの家に来てね!」
「はっはっは、リーズがアーシェラの手を引くのを見るのは、既視感どころか昔からしょっちゅうだったな! それじゃあ俺もサマンサのところに戻る。家の鍵は念のためかけておけよ」
「おう、俺もロザリンデもすぐに行く。リーズに俺の分まで食うなって言っておいてくれよ」
「なんかその言葉もしょっちゅう言ってたな。伝えておくぜ」
ともあれ、お腹が減っているリーズは、アーシェラをひぱっていってしまった。
ロジオンもそのあとに続き、村人と話しているサマンサのところに戻っていった。
イングリッド姉妹はすでに食卓の用意に向かったようなので、新築の家にはエノーとロザリンデだけが残される形になる。
「二人きりですね、エノー」
「あぁ、長い旅だったが、ようやく俺たちが好きにできる空間を手に入れたわけだ」
「これで心置きなく……♪」
ロザリンデはゆっくりとエノーに体を寄せ、つま先立ちして唇を重ねた。
秋の空は高く、人が増えた村には穏やかな風が流れる。
二人はこの村でこの先何をするかはまだ決めていなかったが、長い旅の後という事もあり、しばらくは何もせずにのんびりするのも悪くないかもしれない。
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