3日目 挨拶
ブロスをはじめとする村人たちが、村の外の罠にかかった肉食魔獣のすべてにとどめが刺され、大型魔獣の解体を始めている間、リーズは魔獣の襲撃を知らせてくれた女性に話しかけられていた。
「貴女が勇者リーズ様でしたか。噂はかねがね聞いておりました。まさかこのようなところで助力いただけるとは思いにもよりませんでした。村の守人である私レスカから、心よりの感謝を申し上げます」
「い、いえ……それほどでもありませんわ! 人々を守るのは、勇者であるわたくしの使命ですから……」
レスカと名乗った女性は、長い黒髪にクールでキリッとした顔をしており、この村では珍しく頑丈そうな金属鎧を身に着けていた。その姿はまるで王都にいる高位の騎士のようで、さらに身長はアーシェラよりも高く、女性なのに威圧感たっぷりだった。
アーシェラの家に滞在して気が抜けていたリーズは、少々戸惑いながらも「勇者リーズ」として礼儀正しく応じようとする。
が、そんなやり取りを見たアーシェラは、なにか見かねたようで、レスカに背後から声をかけた。
「レスカさん、リーズをからかうのもほどほどにね」
「ん? ああ……一応失礼になってはまずいと思ってな。いつも通りでいいのか?」
「失礼どころか、この村にいる時くらいは普通の女の子のように接してあげてよ。その方がリーズも気楽になれるから」
「そうだったのか!」
アーシェラから、格式張ったやり取りなどせずに自然体でいいと言われたレスカ。
すると彼女は、キリッとした鋭い表情を一瞬で消し去り、代わりに豪胆な女傑のような顔を見せた。
「いや緊張させて悪かった。私を含めこの村の人々の前では気張らなくても大丈夫だし、むしろ素直に接してくれた方が嬉しく思う」
「シェラ……本当にいいの?」
「勿論だよ、リーズ。この村の人たちは格式なんてあまり気にしないから、山向こうみたいにいつも気張る必要はないよ」
「もっとも、勇者だからと言ってあまり特別扱いとかもしないが、それでもかまわないよな」
この村では「勇者リーズ」である必要はない――――――
アーシェラとレスカがそう言ってくれたことで、張りつめていたリーズの表情が、みるみるうちに明るくなった。
「うんっ! リーズはリーズのまま、みんなと仲良くなりたいのっ! よろしくね、レスカさんっ!」
こうしてリーズは、一見堅物に見えたレスカと早々に仲良くなると、ほかの村人たちと共に魔獣の解体を手伝い始めた。
レスカとのやり取りをすぐ傍で聞いていた人々も、リーズを勇者ではなく、まるで村長アーシェラの親戚が来たかのように快く歓迎し、手を動かしながら、この村に来た経緯やアーシェラとの関係について気軽に会話し始めた。
「ヤッハッハ! そういえば私は最初っから勇者様にため口だったし! でも問題ないよねリーズさん? ヤーッハッハッハ!」
「おっし! じゃあ今日は村にいる全員でリーズさん歓迎の宴会だな! 俺はパンを焼くから、村長には料理を作ってもらうか!」
「シェラっ! 朝の約束忘れてないよねっ! リーズはハンバーグが食べたい!」
「ははは、僕がリーズとの約束を忘れるわけないじゃないか。こんなに巨大なお肉があるんだから、お代わりできるくらいたくさん作ってあげるよ」
こうしてリーズは、あっという間に村人たちの輪の中に溶け込んだ。
もともと彼女は「勇者リーズ」としてふるまっている時でも、老若男女問わず誰とでも仲良くなれたが、こうして普通の女の子として話すと、もっと親しみやすくなる。
(王国にいた時も、こうやって過ごせたらよかったのに)
王国にいた時も、かつての仲間のところを訪ねた時も、リーズは「勇者らしくない」と言われないように必死で自分を律していた。特に王国での生活は、行動のなにもかもが礼儀作法だらけで、もともと表裏のない明朗快活なリーズにとっては息苦しく感じていた。
だが、この村の人々は、そんなことは全く気にしないでいてくれる。それがリーズにはとても心地よかった。
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