宣誓

 昼食の熱気がようやく冷めて、人々が落ち着きを取り戻すと、式典はいよいよ最後の段階に移った。

 まずは、中小諸国の代表がリーズとアーシェラのいる壇上に上がり、今後諸国が人類の平和のために手を取り合って協力していくことを約束する書面に調印を行った。

 王国以外の諸国は、戦役以前はいろいろと複雑な事情を抱えており、国同士の争いも日常茶飯事だった。そして、現在でもその色々なわだかまりは完全に消えたとは言えないが、これ以上各国で争うのは、魔神王討伐に命を懸けたリーズの顔に、泥を塗ることになるという認識で一致させた。

 今回の調印で、国境線が現状のまま確定したため、やはり一部損をした国もあったものの、そういった国にはアーシェラが様々な形で便宜を図ることを約束。今は復興に専念するのが優先という意思を、全員で確認することができた。


「リーズさん、これからは私たちで平和な世界を作っていくよ」

「魔神王討伐で活躍できなかった分、平和な国造りで活躍して見せるからねっ!」


 リーズは、この日になってようやく……自分の活躍が本当に報われたと感じることができた。

 王国にいたころは、結局自分が魔神王を倒しても、世界が変わることはなかったとすら思っていたのに…………


「ね、リーズ。これも全部、リーズが命をかけて頑張ってくれたおかげなんだよ。僕も、そしてみんなも、リーズと戦えたことをとても喜ばしく思う」

「そんな…………ほとんどはシェラのおかげだってリーズは思う。シェラが、ずっとずっと遠くを見てくれたから、リーズたちはどこに向かえばいいか知ることができるんだから」


 ちっぽけな存在だったリーズとアーシェラが、ここまで大きな力を持つことになるとは、誰が思っただろうか。そして、そんな大きな力を持つ二人が特定の国のものになってしまえば、せっかく安定したパワーバランスがまた崩れかねない。

 そこで、調印式が終わると、続いて開拓村の正式な独立宣言がフリッツによって行われた。


「み、みなさんっ! 僕たちの開拓村は、旧カナケル地方に国として独立することを宣言しますっ! 今までは、村の周囲はあまりにも危険で、アーシェラ村長を中心とした有志だけで戦ってきました。そして今もまだ、危険なことには変わりなく、生活は安定しているとは言えません。ですが……それでも協力してくれる方がいらっしゃいましたら、共に歩む仲間として迎え入れたいと思いますっ!」


 もともと貴族出身だからか、緊張しつつも堂々とした態度で開拓村の独立を宣言したフリッツの姿は、人々に好印象で受け入れられた。特に、年頃の女性たちはフリッツの魅力に心を撃ち抜かれ、宣言のすぐ後に大勢の女性冒険者が、開拓村への移住を志願し、レスカをいらだたせたという。

 ともあれ、今後開拓村は正式に開拓団を募集し、新しい国づくりをすべく進むことになるのだろう。

 リーズとアーシェラは、開拓村の「村民」の代表として、先ほどの各国が調印した書類にサインした。これで、リーズとアーシェラの二大巨頭は、どの国にも対等に接する仲間という位置づけになり、かつてのように仲間内で序列の上下が決まってしまうことはなくなるだろう。


 こうして、かつての仲間同士の結束を確認したリーズ達。

 しかし……夕方になる直前で、大勢の人々の喜びに水を差すような存在が現れた。


「失礼する。遅くなったが、私たちも式典に加えていただいてもよろしいかな」


 やってきたのは…………グラントをはじめとする、かつての1軍メンバーの数人と、がっしりした黒い鎧を纏った赤髪の男性に手を引かれた、水色髪の高貴そうな服を着た少女。

 わざと仲間外れにしたはずの王国勢が、この期に及んで乱入してきたのだ。


「戦術士グラント…………それに王国の犬に成り下がったやつら! お前ら何しに来た!」

「リーズとアーシェラの仲を引き裂こうとするなら、私たちは承知しないからね!」

「言っておくけど、あなたたちに食べさせるハンバーグはもうないから」


 かつて自分たちを差別し、戦いが終わったら平気で見捨て、おまけにリーズを不幸にした1軍メンバーが顔を出したことで、元2軍メンバーたちの間に緊張が走った。

 一触即発の空気が辺りを包む。はたして、平和の祝典の行方は――――

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