21日目 絆
リーズがこの家に住み始めてから21日目の朝。
いつものように仲良く二人用のベッドで抱き合って眠るリーズとアーシェラ…………だが、この日先に目を覚ましたのは、珍しくリーズの方だった。
「ん…………? あさ?」
いつもは体を揺すられて起きるのに、自然に目が覚めたのは何日ぶりだろうか。以前にも一度、このようなことがあったが、それが9日前だったと思い出すのに、しばらく時間がかかった。
しかし、そんなことはもはやリーズにとってはどうでもいい。久しぶりに見るアーシェラの寝顔に、リーズのテンションが早くも上がり始めた。
「えっへへへ~、やった♪ またシェラより早く起きちゃったっ」
リーズは、アーシェラが起きないように小声でつぶやきながら、愛する人の体をキュッと抱きしめ、その胸に顔を埋めた。
静かな朝だった。まるで、昨日の一連の騒ぎが嘘のように思えるほど、のどかな空気の中にリーズはいる。けれども、この日の朝は昨日の朝とは、何もかもが違う。
何故なら――――今日からここは、正式にリーズの家に……いや、リーズとアーシェラの家になる。それもこれもすべて、大好きなアーシェラのおかげだ。
「シェラったら、昨日頑張りすぎて疲れちゃったのかな?」
リーズは、ずっと自分がアーシェラを守っていけばそれでいいと思っていた。
年下の女の子が年上の男性を守ることが一般的におかしいことだったとしても、リーズにとっては関係ない。
リーズには守る力があるのだから、リーズの方が愛する人のために頑張るのは当然のことだと考えていた。
けれども、昨日はアーシェラがリーズのことを体を張って守ってくれた。
彼らしく、一滴も血を流すことなく、リーズへの気持ちの強さだけで敵を圧倒して見せたのだ。それは、剣の暴力で守ってくれることよりも、何百倍も嬉しく感じた。
「ありがと、シェラ♪ とっても、格好良かったよ。愛してる………ちゅっ」
リーズは、躊躇いなくアーシェラの唇に自身のそれを重ねた。
あれほど遠かったアーシェラの唇が、吸い寄せられるほど近くにある。それが、今のリーズにはとても幸せに思えた。
「ふぁ…………はふ? りー……ず?」
「あ、シェラ! 起きた?」
すやすやと寝息を立てていたアーシェラが、まるで王子様のキスで目覚めるお姫様のように、ゆっくりと瞼を開いた。
彼の視界いっぱいに広がるリーズの笑顔。これも、以前のアーシェラなら驚いて飛びあがるところだっただろうが、今ではすっかりリーズがいるのが当たり前になって逆に安心するように感じた。
「えっへへぇ~、シェラ~♪ お~は~よ~っ!」
「おっととと、今日は先を越されちゃったみたいだね。昨日色々あったから疲れたのかな?」
いつものように胸ではなく、彼の頬に頬擦りしてくるリーズに、流石にアーシェラも顔を赤くしながら、されるがままに受け入れる。
昨日、敵に立ち向かった際に放った「リーズにたくさん甘えてほしい」という願いが、どうやらさっそく実現したようだ。
「シェラ、昨日は本当にお疲れ様っ! 今日はリーズと一緒に、ずっとのんびりしようよっ」
「ははは、そうだね。でも、朝ごはんはちゃんと作らなきゃ。今日の朝ご飯を食べるのは僕たちだけじゃないし」
昨日のアーシェラは、まさに一世一代の大活躍と言っても過言ではなかった。
かつて自分を見下していた1軍の貴族を、穏やかな性格から想像もできないほどの舌鋒で完全に打ちのめし、愛するリーズの好感度をさらに高めた。
そして、その後の戦勝記念祝賀の料理も、なぜか勝利の立役者であるアーシェラが作ったので、ほぼ一日休まず働き通しだったことになる。
まだ若い身体は、すっかり疲れが取れていた。アーシェラは、一度うーんと背筋を伸ばすと、リーズと一緒に着替えだした。
今日一日はのんびりしたいところだが、せめて朝ごはんの準備くらいはしなければならない。なぜなら――――
「おーい、リーズ、アーシェラ! 起きてるかー?」
「リーズ、アーシェラさん、おはようございます」
「あ! エノー、ロザリンデ! おっはよーっ!」
「やあ二人ともおはよう。僕たちも今起きたところなんだ」
村で一夜を明かしたエノーとロザリンデが、朝早くに二人の家を訪ねてきた。今日はこの二人の分も含めて、4人分の朝食を作る必要がある。
「あいにく、朝食の準備は今からだから、しばらくリーズと朝トレーニングでもしてきてよ」
「ああ、流石にまだ早かったか。それにアーシェラも、昨日大忙しだったからな」
「誰のせいだと思ってるんだい?」
「リシャールのせいだろ」
『だよねーっ!』
4人で軽口を言い合うと、アーシェラは一人で台所に向かい、彼が朝食を用意している間に軽く汗を流しに向かう。そこにはすでに、2日前の夜のようなお互いに信用できない雰囲気はない。
かつて共に魔神王討伐の戦いに赴いた戦友の絆が、再び戻ってきていた。
「さてと、今日も張り切っておいしいものを用意しよう。エノーはきっと汗だくになって戻ってくるはずだからね」
朝食前のリーズの「軽い運動」に付き合わされるエノーに若干同情しつつ、アーシェラは竈の薪に火を入れた。
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