19日目 記憶
アーシェラは言った。「もう5人では見れない」と。
なぜか? 5人のうち一人は、もうこの世にいないからだ。
なぜか? ツィーテンはリーズたちが邪教集団との戦いに赴いている間、彼らが向かえなかった方にあった村の住人を避難させるために、自ら囮になり…………仲間を逃がして死んだ。
リーズは2回泣いた。
ツィーテンが命を落としたと聞いたその日と…………かつての2軍メンバーに会いに行く旅で、サマンサとロジオンに会いに行ったとき、丘の上に立っていた石碑に書かれた彼女の名前を見たとき。
「ごめんね……ごめんね……」そう繰り返し叫んで泣いた。
(リーズは…………何のために、みんなに…‥シェラに会いに来た?)
1年前――――国王から、他国にいるかつての仲間に会いに行く許可を得た時、リーズは内心喜び半分不安半分だった。
もう会えないと思っていた仲間たちにまた会える……それはとても喜ばしいことだ。だが、リーズには「仲間を見捨てて、自分だけ魔神王討伐の栄誉を手にした」という後ろめたい思いもあった。
王国からは、全員功績に応じて褒美を上げたと聞いていたが、それは嘘で、アーシェラをはじめとする半数以上の仲間たちは、失意のうちに王国を去ったと知ったとき、リーズはやっぱり泣いた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」そう繰り返し叫んで泣いた。
(リーズは、みんなに謝らなきゃいけなかった)
訪問リストと日程表が渡され、各地のかつてのメンバーたちには王国から事前に通知が行った。
王国からは「律義に全部回る必要はない。途中で帰ってきてもかまわない」と言われていたが、もちろんリーズに途中で帰る意思はなかった。
リーズは、決死の想いで謝罪行脚に挑んだ。
どんな罵詈雑言をぶつけられるか……どんな恨みを向けられるか……リーズは、己の貞操の危機に瀕した時以外は、全て受け止めることを覚悟した。
もしボロボロで王国に帰れば、それだけ彼らの恨みが強いことを王国の人々に知らせることができるだろう。もちろん王国からの復讐は自分が命懸けで止める。それが、リーズに課せられた贖罪の使命だと意気込んでいたのだ。
ところが―――――――リーズの予想は、いい意味で大きく狂ってしまった。
「勇者様! よくぞ来てくれました!」
「お久しぶりですっ! ああ、再び会うことができて、本当に光栄ですわ!」
「勇者様も随分立派になりましたね! 我々も鼻が高いですよ!」
リーズを待っていたのは、見捨てられたことへの恨みではなく、心からの歓迎だったのだ。
誰もが望む富と名声を手にし、世界の復興に向かって生き生きと自分の力を発揮する彼らは、魔神王討伐の旅路で一緒に戦っていたころよりも輝いて見えた。
「本当に……ごめんなさい。一緒に戦ってくれたのに、今まで何のお礼もできなくて……」
それでもリーズは、一人一人に会いに行く度に、律義に謝って回っていた。
けれどもそれは、彼らが望むことではなく、むしろ笑顔で元気なリーズを見ることができれば、他には何もいらなかった。
「あ、頭をお上げください勇者様! 謝るだなんてとんでもない!」
「はっはっは! 俺たちはこれっぽっちも「勇者様を」恨んではいませんぜ!」
「湿っぽい話は後回しにしましょうよ! 今は勇者様に会えたことを喜ばせてください!」
彼らは例外なく、謝罪は不要と言ってくれた。それよりも一緒に喜んでほしい、そう言ってくれた。
いつしかリーズは、彼らに出会って最初に謝罪するのではなく…………彼らのもとを去る時に頭を下げた。
「最後に一つだけ謝らせて。今まで来れなくて、本当に、ごめんね。そして、いつかまた、絶対に会いに来るから」
そう言って…………リーズはかつての仲間と握手を交わし、おまけに女生とは抱擁を、男性とはハイタッチをしてきた。そう、例外なく、誰にでも…………
さてさて、リーズは本当に全員に謝ったのか?
何か忘れてはいないだろうか?
「リーズは……………シェラに、謝って………ない?」
「へ? 今何か言った?」
リーズの小さなつぶやきがよく聞き取れず、ふとリーズの顔をもう一度のぞきんだアーシェラだったが――――――ランプと月明かりに照らし出されたその顔を見たとたん、彼は冗談抜きで心臓が止まりそうになった。
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