第19話 冷めた朝食

「おかえり」


 ぼくたちを迎えてくれたのは、あねごさんの爽やか笑顔だった。


「いやあ、疲れた」


 まずは椅子に座る。

 テーブルの上には湯気のないごはんとみそ汁、

 それと未封の缶詰がずらり。

 どうやら箸をつけてないようだ。

 朝食どころじゃなかったからだろう。


「で、これからどーすんのよ?」


 ヒメの口がアヒルのように尖っていた。

 不安を隠すための攻撃的な態度だろうか。


「予定は変わりませんよ。

 この屋敷内をくまなく調べることです。

 8人目が存在する可能性がありますので」


 リビンクの空気はピリピリしている。

 のに対して、ハカセさんの口調はどことなく柔らかかった。


「そりゃそうだろうな。

 外部との連絡も取らねえといけねえし。

 メシにしようぜ」


 あねごさんは箸を掴んで「いただきます」と、ごはん茶碗を持つ。


「信じられない。熊さんが亡くなったあとでよく食べられるよね」


 ヒメは口を押さえながら、

 あねごさんをチラ見した。

 ぼくも同意。


「もったいねえだろ。

 あたしたち助けが来るまで、

 ここでしがみついてねえといけねえんだから。

 食料だって限りがあるんだよ」


 確かにあねごさんの意見もごもっとも。

 だが、その言葉だけでは食欲が湧かなかった。


「食べながらで構いませんので、聞いてください」


 ハカセさんがテーブルに右手を添えながら言った

 ガツガツ食べているのは、あねごさんだけなんだが。


「屋敷内の捜索ですが、

 二手に別れようと思います。

 なぜか、わかりますよね? 

 そのもしもに備えて、

 僕と太朗くんは別々になろうかと考えているのですが」


 筋が通っていた。

 もし8人目に遭遇したとき、

 熊さんみたいにムキムキの男だったら、

 ヒメや白ちゃんでは対抗は無理だろう。

 逆に人質になってしまう。


「それって力ずくで絡まれて時でしょう? 

 ハカセさんと太朗って両方役立たずじゃないですか?」


 うぐっ。生意気なヒメの愚痴がぼくの心臓に刺さる。


「まあ、そう言われると僕としての立場が……」

 ハカセさんも言葉を失っているようだ。


「だったら、女性と男性でチームわけしたほうが早いですって!」


 ヒメとはあまり関わりを持ちたくないので、

 個人的にはラッキーだった。

 男としてのプライドはないんだが。


「太朗くんとあねごさんはそれで構わないかい?」


 長く低い溜息を吐いたあと、ハカセさんは同意を求めてくる。


「はい」「いーよ」


 だが白ちゃんは首を横に振った。

 見るに見かねたあねごさんは、


「おい、なんで否定すんだよ。ひょっとして男なのか?」


 更に白ちゃんは首を左右に振った。


「じゃあ女だって証拠見せてみろよ」


 ぬわにいいいいいい! 大胆発言。

 ここで白ちゃんが脱ぐのか? 

 こ、これは社会勉強の一環として脳裏に収めて置かなければ。


「白ちゃんが可哀想でしょ。

 その辺でやめておきなよ。

 それにあたしら一緒にお風呂入ったの忘れたの?」


 最悪な展開。ヒメがブロックしてきた。


「ははは、冗談だよ。

 からかっただけ。

 なあ、あたしらと同行するよな?」


 あねごさんはフレンドリーに白ちゃんの肩に腕を絡ませて、

 ズリズリと頬ずりをしてきた。

 目を引きずったまま白ちゃんは頷く。

 ちょっぴり残念。


「どっかの誰かさんは、思いっきり期待していたんでしょうねー」


 あさっての方向を向いてヒメが間接的に突いてきた。

 ムダな口論はしたくないので、

 せき払いをしながら場を流すことにした。

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