第10話 これからの方針

 車内から下りると、みんなが輪になって何やら話している。

 ぼくは、ハカセさんとあねごさんの間に入ることにした。


「道が続いてるから進むべきじゃね。

 なあ太朗もそう思うだろ?」


 あねごさんが尋ねてきた。

 どうやらこれからの方針らしい。


「ですね。

 通信手段が途切れていますので、

 待っていても助けに来るとは限らないし」


「えー! 

 この山道、みんなで行くの?」


 頬をぶくーっと膨らませてヒメが反発する。


「大丈夫だあ。

 おらぁリュックに、

 しこたま飯と水入れて来たたべ。

 餓死にはならないだ」


 胸を叩いた熊さんはリュックを下ろして中身を披露。

 水二リットルのペットボトル3本に、

 缶詰がガチャガチャに仕込まれていた。


「二手に別れた方がよさそうですね。

 待機組と捜索組で」


 まとめたのは、やはりハカセさんだった。


「どう分けましょうか?」


「……」


 良案が浮かばないらしく全員が黙りこくった。


「希望を取りましょう。

 待機組か捜索組で挙手してください。

 捜索の方がいい人?」


 しーん。全員が手を挙げない。


「では、待機組がいい人?」


 ぱっ! 花火が咲いたようにぼくを含めて全員が挙手。


「当然でしょ。

 いくら水と食料があるからって、

 どこまで続くかわからない山道なんて歩きたくないし」


 ヒメがふてくされるように言った。


「参りましたね。

 全員残ったら意味がないですよ」


「またジャンケンで決めるしかねーな」


 今にもケンカを始めるような仕草で、

 あねごさんが指をボキボキ鳴らす。


「恨みっこなしだぜ。

 最初はグー、ジャンケンポン!」


 全員がリズムに合わせて中央に手を振った。


「またメガネかよ」


 ハカセさんがグー。

 その他全員パー。

 まるで仕組まれたように。


「よっしゃあ、あと2人だな」


 2回戦。あねごさんの音頭でジャンケンポン。

 結果はぼくとヒメがチョキ。

 熊さんと白ちゃんとあねごさんがグー。


「珍しいな、2回で決まるなんて」


 自分の勝利にぽっかりと口を開けるあねごさん。


「僕と太朗くんとヒメさんが捜索組で、

 あねごさんと白さんと熊さんは、屋敷で待機ですね」


 負けたハカセさんは、

 ちょっぴり嬉しそうに笑みを浮かべた。


「あたし行きたくなーい!」


 ヒメはその場にしゃがみこんで顔を伏せてしまった。

 ぼくだって行きたくねーよ。

 ワガママ言いやがって。


 その様子を見るに見かねたあねごさんは、


「しゃーねーな。

 あたいが代わりに行ってやるよ」

 頭をかきむしりながら言った。


「ほんと? あねごだーいすき」


 すくっと立ち上がったヒメは、

 あねごさんのふくよかな胸に迷いなく飛び込んだ。


 なんとも微笑ましい光景。

 ぼくも代わってくれないかなぁ。

 と、熊さんをじーと見ていると、

 アイコンタクトが通じたのか、

 向こうから歩み寄ってきてくれた。

 そしてぼくの正面に立ち、


「太朗さん。これ水と食料だ」


 リュックを手前に出した。


「ははは、ありがとうございます」


 笑うしかなかった。


「日が暮れてしまうので行きましょうか」


 ハカセさんとあねごさんの後をしぶしぶ歩こうとすると、

 シャツを引っ張られる感触が。


「どうしたの?」


 白ちゃんだった。

 まさか荷物が増えるのだろうか。

 それだけは勘弁して欲しかった。


「もしかして白さんも、同行していただけるのですか?」


 ハカセさんがぼくの左に回って白ちゃんと目線を合わせる。

 コクリと頷いた。


「留守番してろ。

 その格好じゃ無理だ」


 あねごさんがぼくの右に入ってきた。

 確かに白ちゃんの服装は、白のワンピースに鼻緒の付いた草履。

 山道を歩くのには軽装過ぎる。


 この先どのくらいかかるかわからないし。

 それでも白ちゃんは左右に首を振って駄々をこねる。


「仕方ありませんね。

 僕の代わりに行ってもらいましょうか」


「てめえは強制に決まってんだろうが」


 ハカセさんの後ろ襟を鷲づかみにしたあねごさんは、

 そのまま引っ張った。


 ハカセさんは「おっとおととととと!」

 と、倒れそうになったのを、踏ん張って持ちこたえた。


「暴力はいけませんよ、もっと民主主義に」


「すっこんでろ」


 あねごさんの一喝にさすがのハカセさんも、

 しゅんと縮こまってしまった。


「白ちゃん連れて行っていいんじゃないの? 

 別に3対3に分けなくちゃ行けないわけでもないし」


 確かにヒメの言うことも一理ある。

 でもどうして捜索組に? 

 意味のわからない子だ。


「ぼくも同意見です。

 捜索は1人でも多いほうが、もしもの時に助かります」


 もちろん根拠はなかった。

 口からデマカセ。


「じゃあ白の面倒は太朗が見ろよ。

 出発するぞ」

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