第六部 第六章 第二十一話 ニャンニャン!ネコ、カ~ブルン! 


 ライはイストミル国の改革を手助けすることになった。


 結局、ライの御人好しは全く直る気配はない。イストミル国民を……そして『猫神の巫女』同様に立場に振り回されるイストミルの姫を見過ごすことが出来なかったのだ。


「さて……そうとなったら、やることは山程ある。ここからは途中で投げ出せませんから、ベクノーアさんも覚悟して下さいよ?」

「手助けして貰えるか!感謝する!」

「それでですね……。ベクノーアさんがどこまで動けるのか知りたいんですけど……」

「私の権限で出来るのは王と王妃……それと双子の姫に『猫神の巫女』を会わせることだ。後は他の対立貴族の封じることに割かれてしまうだろう」

「分かりました。……。ところで、双子の姫は仲が悪い訳ではないんですか?」

「仲は非常に良い。ただ……」


 ベクノーアが少し言葉に詰まる様子に何か問題を感じたライは、正直に話すように促した。


 渋々口を開くベクノーア。その表情は複雑という言葉が相応しい。


「実は……双子の姫は性格がやや厄介なのだ。姉は何というか……掴みどころがないというか、考えが読めない。逆に妹は直情型……考えるより行動の方が早い」

「……そ、それ、本当に双子ですか?」

「顔は瓜二つだ。黙っている場合、見分ける方法は瞳の色しかない」

「…………」


 これまでに無く面倒そうな巫女候補に幾分不安になるが、ともかく一度決めた以上行動を起こさねばならない。



 それから一同はベクノーアと打ち合わせを行ない、今後の対策検討も含め一時的にノウマティンに帰還。アクト村には戻らずノウマティン首脳陣と猫神の巫女による報告・検討へと移る。


 猫神の巫女達を待つ間、ライにはやることがあった。


「じゃあ皆、巫女衣装と武器を置いていってくれる?」

「えっ?な、何故ですか?」

「フッフッフ……勿論、強化する為だよ。まぁ、そこの宿屋で待ってるから楽しみにしててね~?」



 魔獣と戦った巫女達にとって装備強化はありがたいことではある。が……ライのやることである以上、一抹の不安が拭えない。

 次は一体どんなことになるのか……チェルシーとクーネミア、そしてフラーマ以外は複雑な表情のままノウマティン首脳陣との会談へと向かった……。



 その後……半刻程で指定の宿屋へと向かった巫女達は、入り口で宿の主に呼び止められる。


「姫様方……実は白髪の男の方から手紙を預かっていまして……」

「えっ……?そ、その方はどちらに?」

「さぁ……。何やら急いで去って行きましたが……」

「そう……ですか……。済みませんが空いている部屋をお借りできますか?」

「は、はい!御利用、有り難う御座います!」


 逸早く内容を知る為に借りた部屋の中、巫女達を代表しリプルが手紙を開く。

 中には手紙──そして、巫女衣装に合わせた色の指輪が人数分同封されていた。


「わ、私達の衣装はどうしてしまったのでしょうか……?」

「落ち着いて、ミソラちゃん。まずは手紙を確認しましょう」


 そしてリプルは手紙を開き、声に出しながらゆっくりと読み始めた……。


『この手紙を君達が読む頃、俺はもう居ないだろう……』


 以前も見たような書き出しに一瞬不安になった一同……だが、今回はかなり簡素な手紙である。


『ま、今日は忙しいから一旦帰るけど、またちょっとしたら戻ってくるよ~ん!フッフッフ……寂しいなんて言わせねぇぜ、おニャン子ちゃん達?』

「…………」

『おっと……それより衣装だけど約束通りバワーアップしとるぜぃ?皆、色分けしている指輪で自分の物は分かるだろうから着けてみてね?』

「………やっぱりコーチが置いていったのは指輪だけみたいですね。とにかく指に……」


 リプルは封筒に入っていた指輪を全員に配る。と……ここでちょっとした質問が……。


「リプル……指輪ってどの指に着けるの?」

「チェルシーは薬指!」

「……。クーネも薬指」

「ちょっと、あなた達!……。じゃあ私も薬指に……」

「ベルガ………」

「な、何よ、ミネット!も、文句でもあるの?」

「いや……。ま、まぁ良いんじゃないかな……」


 生温い眼差しのミネットだが、自分もちゃっかり薬指に指輪を嵌めた。


 話し合いの末、『猫神様に嫁いだ』ことにして全員左手薬指に指輪を嵌めることで落ち着いた。

 勿論、猫神たるメトラペトラが雌であることを承知の上での話だ。



 ロウド世界においても左手薬指の指輪は特別な意味を持つ。ロウド世界と『の世界』が似通っている理由はやがて語られることになるだろう。




 そうして全員指輪を嵌めた状態で手紙を更に読み進めると……。


『さぁ!叫ぶんだ!【ニャンニャン!猫被~ぶるん!】と!』

「ニャ……。え?」

「ニャンニャン!ネコ、カ~ブルン!だそうで……」


 その時、説明中のリプルに変身が発動……。指輪が光ると同時にリプルの服は何処かへと消え去り、その体は輝くシルエットに。

 更に、光る身体に鈴の付いたリボンが巻き付き猫神の衣装が完成。その手にはいつの間にか杖が握られていた。


「…………」

「…………」

「…………」

「何!今の!?」


 一同驚愕……それは着替えではなく『変身』の類いだった……。


「な、何か一瞬裸になった様に見えたんだけど……も、もしかして、あたし達もあんな風に?」

「だ、大丈夫よ、ミネット……裸が見えた訳じゃないから。で、でも指輪だけで着替えが出来るなんて……凄いわ」


 感心するベルガの言葉で我に返ったリプル。いつの間にか着替えた事実に驚きつつも手紙の続きに目を通す。


『……の掛け声で変身だ!因みに指輪は【空間収納庫】にもなるから巫女装備以外も持ち運べて便利だよ?それと、追加の装備も入れといた。大体その宿の一部屋分くらい荷物が入るから』

「……。す、凄い便利ですね」


 ミソラはまだ騎士の装備も所有しているので【空間収納庫】に喜んでいる。


『他に指輪には転移機能も付けた。魔力量の問題で一度使用すると再転移に時間が掛かるけど、本当に危険な時の回避とかに使ってくれ』


 通常の転移陣では計算が複雑になる。それを補う為に術式を見直し《思考加速》を加えた転移。平穏な通常時でも使用出来るように蓄積型純魔石は二つ埋め込まれていた。


『じゃ!二、三日程でまた来ると思うよ?それまでに色々慣れといてね~?』


 書き殴りの手紙はそこで終わっていた……。


「流石お兄ちゃん!チェルシーの嫁!」

「……。フッフッフ!私達、どんどん凄いことになってる」

「ハ、ハハハ……クーネちゃんの言う通りですね~……」

「ミソラちゃん、白眼になってますよ~?」

「逆にフラーマちゃんは動じないね……」


 フラーマの天然おっとりに皆が感心半分、呆れ半分だった……。


「と、とにかく!私達は私達のやるべきことをやるわよ?」

「ベルガ……やるべきことって?」

「決まってるでしょ、ミネット?修行よ、修行。コーチが戻る前に少しでも慣れないと……」


 と、そこで皆は重要なことを思い出した……。


「……ああ!ド、ドーラさん、忘れて来ちゃった!」



 その後慌ててドーラを迎えに行った猫神の巫女達。遂に変身、そして転移まで果たしたことでドーラが白眼になっていたのは余談である……。




 そして我等が『猫神の使者・ライ』は───。



「ホオズキちゃん、ランカ。買い物終わった?」

「はい、終わりました」

「ホオズキ……ち、ちゃんは店の人と意気投合していたよ」

「ランカちゃんは下着を買っ」

「ホ、ホオズキちゃん!そういうのは内緒に……」

「?……わかりました」


 どうやら二人とも買い物を充分楽しめた様だ。


「じゃあ、食事にして移動しよっか……そういや『酔いどれニャンコ』はまだ戻らない?」

「ああ。何処に行ったんだ?」

「酒樽の中」

「…………」

「……仕方無い。二人ともあそこに祭壇が見えるだろ?酒ニャンが居るから連れてきてくれる?あ、これ……酔い醒まし。師匠の口に放り込んでくれれば大丈夫だから」

「ライはどうするんだ?」

「俺はここで買い物してるから頼むよ」

「わかった。行こうか、ホオズキちゃん」

「はい!」


 二人がメトラペトラを迎えに行く間、ライはクトリの店にて巫女衣装一式を準備する。新たに加わる可能性がある二名分……それを手早く神具に仕立て指輪に収納した。



 幾分の魔力消費はマイクの天猫教会の宝珠から補充。一応宝珠にも機能を追加した後、食事と相成った。


 ランカに酔い醒ましを飲まされたメトラペトラはグッタリとしていたが、分身体がトォン国・シシレックで酒を調達する旨を伝えると割とあっさり復活した……。


「それで、挨拶回りはもう良いのかぇ?」

「いえ……。どうせなので、このままリーファムさんのところに……」

「ふむ。そう言えば、お主がリーファムに依頼した件がどうなったか聞いていなかったのぅ……アプティオ国では詳しく聞きそびれたわぇ」


 リーファムに依頼した元リーブラ国の民の捜索と救出。予定では完了と同時に連絡が来ることになっていた。


「悲観的な様子は無かったので順調だと思いますよ……。でも、一応念の為に確認を。それに、今の俺の住まいを教えておけば連絡が楽かと……」


 不安定な平和になりつつある現在、リーファムとの連携は今後必要というのがライの本心だった。


「リーファム……というのは、もしかして『火葬の魔女』か?」


 突然ランカからその名が飛び出したことに驚くライ……。『火葬の魔女』はそんなに有名だったのか?と首を傾げる。

 だが、ランカはどうやら知名度で知っていた訳ではない様だ。


「実は一度依頼をしたことがある。だから知っていた」

「?……それって……」


 ホオズキの目があるのでサザンシスを知られないよう念話での会話に切り替えたランカ。その内容は予想通りのものだった。


(サザンシスの標的が魔法で上手く隠れていて見付からなかった際に、少し依頼をね……。だけど、あちらは我々に気付いていない筈だけど……)

(……いや。多分気付いてるよ。その上で口にしなかったんだと思う。その方が互いにとって良かっただろ?あの人はそういう考えが及ぶ人だから)

(そうか……じゃあ黙ってた方が良いな)

(そうだな……)




 食事後、マイクから土産の酒を貰ったメトラペトラは満足げに《心移鏡》を発動。一同はリーファムの住む魔女の島【四季島】へと転移した。



 そこではリーファム以外にも思いがけない再会が待っていることを、ライは知らない……。





 ※お知らせ


 登場人物や世界観が広がりすぎて分かりづらいという意見が多いですね。赤村の未熟故に皆様には大変御迷惑を御掛けしております。


 一応ながら、登場人物に関しては別枠連載として第二部までは載せていますので参考にして頂ければ幸いです。話の纏めもそちらに載せようかと考えていますが、ネタバレしないように気を付けて頂ければと思います。

 即時の準備とはいかないことで御迷惑を御掛けします。


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