悪役令嬢の身代わりですか

工藤麻美

スラム街にて

序章

 人間は生まれた時に人生の大半が決まっている。


私がそう思うのは、子供の成長には必ず親の存在が影響することを知っているからだ。


 何かの調査で両親が離婚した子供は、離婚していない両親の子供よりも将来離婚する確率が高いという結果も出ていた。


何故影響がこんなにも大きいかというのは簡単だ。幼い頃からそれが普通だと思ってきんだから。虐待された子供が抵抗しない理由もここにある。


そして彼らは他の家庭を見て初めて自分の家庭の異常さに気づく。




 私もその一人だった。


父も母も無職。父はギャンブルに明け暮れ、母は家に男を連れ込んだ。それが私の日常。何も苦じゃなかったし普通だと思っていた。たとえそれが育児放棄だったとしても。


 私は5歳ほどにもなれば自分で料理をして勝手に食べた。時折母に自分の分も作れと言われたが無視をした。


 まずわたしの中に母親という概念すらなかった。母は同じ建物に住んでいる汚い女という認識しかなくて、いうことを聞かなきゃとかそんな思いも一切なかった。まぁだから殴られる事も多かったのだが。


恐らく私の中で母は私より下ということに無意識になっていたのだろう。だから母の言う事を聞くことが嫌だったのかもしれない。



 そして働きに出るようになったのは15、6歳。体を売るのは母親が連想されて気分が悪かったのでやらなかった。


私は反政府組織らしきものの暗殺者として雇われた。殺しの術など知らなかったし教えてもらえなかったから最初の内は標的を必死になって殺していた。


人を殺すなんて‥‥と言われるかもしれない。けど他人に自分の人生に口出しされてもあなただって腹が立つでしょう?


 まぁそんなわけで今私はこんな状況に立たされているわけだが。


「あれ?案外驚かないんだね。佐木ちゃん。」


「こんな仕事に就いているんです。銃口を向けられるなんて日常茶飯事でしょう。」


銃口を向けてくるのは私に依頼した張本人。


「まぁ、悪く思わないでくれ。ドラマとかでよくあるだろう?お前は知りすぎたって……」


そして一発の銃声と共に私の人生は終わりを告げた。


 思えば笑えないことばっかりだったな、ずっと。まあ私の給料だけを頼りにしてきた両親がこのことを知れば顔を青くするんだろう。これからどうやって生きていくんだか。まあどうせあの二人なら野垂れ死ぬだろうけど。


「ざまあ‥‥みろ。」


これが私の最期の言葉だと思っていた。


「え‥‥?」


この光景を見るまでは。

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