3 キミのなかのぼく

 滅多に行かない図書館に向かい、本を借りた。それは、彼女が教室で読んでいた本だった。親指の太さと同じくらいの厚みがあるハードカバー。その重さにげんなりしつつ、アパートのベッドに横になりながら、なんとか開いてみる。


 びっちりと書かれた文字。一字ずつ印刷されているはずのそれが、何故か蚯蚓がのたくったものであるかのように感じ、文章を呑み込む前に眠気が襲ってくる。


『この線を辿れば、何処へと終着するのだろう。まるで断崖を歩いているような心地で、私は日々を往く。貴方の辿る線は、何処にも見当たらない。』


 退屈で暗い文言。結局、読んだのは最初のプロローグだけで、気づけば存在も忘れたまま、返却期限までテーブルの上に置きっぱなしにしていた。


 読んでもいないのに返すことに、なんとなく後ろめたさを覚えながら、本を持って図書館に向かう。


 カウンターへ向かおうとすると、書架室からキミがやってきた。ぼくは思わず足を止め、本をキミから隠すべきか、それとも見えるように持つべきか悩み、固まった。


 キミがぼくの前を通り過ぎる。その目が。ちらりとぼくを捉えた――が、それだけだった。

 キミの視線は上っ面だけぼくを認め、留まることなく通過していった。


 カウンターで本を借りるその背中を見ながら、ぼくはようやく気がついた。


 ぼくの意識のなかに、キミがいなかったように。

 友人たちの意識のなかに、キミがいなかったように。


 キミの意識のなかにも、ぼくなんてものは存在していなかったのだと。

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