ぼくの世界にいないキミ

綾坂キョウ

1 写真のなかのキミ

 色褪せた写真。真新しいスーツと袴姿の男女が、卒業証書を片手に写っている。


 もう十年以上も前のものだ。見つけた途端、懐かしさがぼくの胸をきりきりと絞めつける。


 拝啓、あの頃のぼく。キミは、確かもっと一端の大人になるつもりだった。だけど、十年経ってもキミは無力で、詰まるところぼくはキミが描いていたような大人にはなれなかった。残念だけど、そういうこともある。


 カメラに向かって、向けられた笑顔はどれも眩しい。そのうちの何人が、この頃と同じ笑顔を、今もできるのだろうか。


 ふと、その中の一人に目が止まる。ピースをしたぼくの隣の隣で、はにかむ女。その頭を人差し指でつとなぞり、目を細める。


 溜め息をつくと、ぼくはその写真を椅子の上に置いて、押し入れの整理を続行した。

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