カップ・オブ・ティーNOW!

佐賀瀬 智

第1話 カフェでカプチーノを頼んだら…

 あたくしはイギリスに住んでいる。


 日本が恋しくてしかたない。日本はいい国。生活スタンダードがかなりハイ。食べ物美味し、街や公共の乗り物はキレイでクリーン。イギリス生活が長いあたくしには、もはや日本は憧れの日出ずる国。

 The land of the rising sun. ←あたくしの友人、日本好きのイギリス人が日本をこう呼んでいた。


 イギリス? もちろん凄い国だ。建国以来負けなしの国。かつては七つの海を制したグレイトブリテン。自分の国にグレイトってつけるくらいやもん。そりゃー、グレイトなんでしょうよ。スゲー国なんでしょう。


 実際マジ、すごい。


 うっそだろー。まじか。なんでやねん。ってことが多すぎて、この国やっぱスゲーと関心してしまう。


 もうねえ、あたくしは悟りの境地へと自らを押し上げる。ぶっちゃけ、カタルシスを語らねーとマジ壊れる。自らを納得させるしかない。



 いつだったか、カプチーノってカフェで頼んだら、この国には珍しく、ものすごい速さで紅茶が出てきた。カップにティーバッグ入れてお湯注いで速攻テーブルに持ってきたのか、カップの中がまだクリアなお湯。まだお茶出てない状態。


 どうやら、「カプチーノ」が「カップオブティーNOW!!」に聞こえたらしい。どう聞いたらそう聞こえるのか、それはイギリス人に聞いてくれ。つか、そこ、イタリアンカフェだったから、イタリア人だったかもしれん。ああ、きっとそうだ。彼女はイタリアン。チャオ。

 セカンドランゲージVSセカンドランゲージ。話が噛み合ってないのか、はたまた絶妙に噛み合い想像を絶する奇跡を生む。



 ああ、インターナショナルトラジデイ。ウエイトレスさんも大変だ。アジア人に突然、

「カップオブティーを今すぐっ!!ナウっ!!!!」

 と言われた日にゃあ、何であたしがそんなに言われなきゃならないの。と、その日は一日中ブルーだったに違いない。お気の毒に。と思いながらも、話のネタゲット!とゲタゲタ笑いながら、そのまま不味いティーを頂いた。超、受けるんだけど。


 みたいな、ファンタスティックな日常。


 そう、こんなふうに愚痴をだらだらと吐き捨て笑いに変えていく。悪口に次ぐ悪口。そしてサーカスティックな言動。ふと気がつくと、あたくしはとんでもなく嫌なやつ、歪んだひねくれものになってしまった。久しぶりに会う日本の友や家族には、昔はこんな子じゃなかったのに…と言われるありさま。


 ああ、心身に纏い付くゲスい考え、清き心はどこへ消えたのか。日々煩悩にまみれて生きてゆく。そうよっ、そうなのよっ!年末の除夜の鐘は何年も聴いて無くて、あたくしのそれは浄化されずに溜まっていくばかり。もうこうなりゃ、煩悩で煩悩を洗う仁義なき戦いが繰り広げられる。

 ああ、そうか、ここはイギリス、それをキリスト風に解釈すると右頬をしばかれたら、左頬をさしだせ。っつーことか。


 よし、また悟ったぞ。


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