第2話 狂気の爪痕

 河川敷に掛かる高架橋の下。


 時折、電車が走り、風が動き、轟音が響き川べりの芦が揺れる。


 線路を支える高架橋のコンクリート柱の辺りには、枯れた背の低い雑草とむき出しの砂利が混じる地面が見え、季節柄寒々しい。


 川辺に生えている芦がざわざわと揺れ、人が寄り付きもしないような場所、そんな場所に異臭が漂っている。


 鉄錆びのような、生臭い臭い。

 肉が焼け焦げた、むせるような臭い。


 線路を支えるコンクリート柱には、鉄錆びのような臭いをさせ赤黒い粘液質の液体が、何かを叩き付けたように飛び散り滴っている。


 赤黒い液体が滴り落ちる先。


 コンクリート柱の下に、異臭を放つ小さな肉塊がいくつも転がっている。

 やわらかな毛は、刃物ので切り裂かれ赤黒い液体にまみれ、コンクリート柱に叩き付けられた身体の骨は砕け、愛らしかった姿は見る影も、動く事も無くなった。


 冷たく動かない複数の


 そんな無残な姿になり、動かなくなった小さなモノに近づく影が居た。


 焼け焦げた身体、まだ肉と毛が焼けた臭いを漂わせ、ヨロヨロと身体を揺らしている。

 焼けた皮膚は半身におよび、顔から身体までただれさせ、血が滲み、よく見れば刺し傷も幾つか見える、片方の後ろ脚は骨が折れているのか、あらぬ方向に向いて痛々しい。


 熱を帯び、苦痛と激痛に耐え、残った片方の目で前を見据え、脚を引きずり、一歩、一歩。


 動かなくなった、愛おしい我が子たちのもとに。


 血にまみれ冷たく動かなくなった子供たちの臭いをかぎ、鼻先で突いていく。

 一匹、一匹、確かめるように。


「ひゅうー……」

 喉も潰され、鳴く事も許されない。


 ゆっくりと脚を引きずり歩きだす。

 死体のような姿で。

 何かに導かれるように、愛おしい我が子の元を離れ。


 今にも消えそうな命の灯と共に。

 

 何処ともわからない場所に。

 母は歩き出した。

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