好奇心の疼き
間抜けな話だが、互いを半年間も害し合った仲で初めての会話。
しかし気安さすら感じるのは、それだけの期間こやつと対峙し続けたからでもあるのだろう。
<当然だ。むしろお前の方が喋れないのだと思っていたくらいだ>
「なるほど、俺達は互いに『話せない』と思い込んでた訳か。
もう半年もやりあってるのに何とも分かり合えないもんだ」
火竜の眉間に刺さる予備の剣をぞんざいに引き抜き、引き締めていた口元を緩めてそんなことを言った。
何だこいつは…我と分かり合いたいというのか?
そんな新たな疑問を問い掛ける前にヒトの口が開かれる。
「あぁ、それでさっきの質問の答えだが、使ったところで意味無いだろ?」
<ふむ…?>
「水槍と凍結は真正面から溶岩で対応。
もしくは何かをぶつけられて到達前に効果が出る。
最後の圧縮の力場はあえて力で磨り潰す………とかするだろ?」
<むむっ…>
確かに我のやりそうなことだった。
本来ならば『回避する』のが最善手ではあるものの、それを見越して布石に使われてはたまらない。
それで何度も何度も痛い目にあっているのだから、他の対応が取れるなら、ヒトが言ったようにあえて潰していたに違いない。
「お前相手じゃ牽制くらいにしか使えなくて魔力と手数の無駄だ。
そもそもお前は、水を一瞬で蒸発させるほど身体が熱くない。
あれは脆弱な人が、長年掛けて編み出した『火竜専用』の常套手段なんだよ。
まぁ、それでも当たれば結構なダメージは通るだろうが、さっきの理由で意味がない」
予備の剣を鞘に落としながら「それに賢いのには効かないしな」と前足をひらひら振った。
気楽に話しながら火竜の背を歩いて翼の根元に刺さっていた剣も抜く。
そのまますぐに火竜の背を降り、剣を振って血を飛ばしてこちらへと差し向けた。
「さて、仕切り直しだ」
そんなことを言い放つヒトを、我は『面白いヤツ』だと改めて思う。
今の戦闘は、いくら最適化された常套手段で短時間だったとは言え、非力なヒトの身には随分な負荷があったはずだ。
火山に居る強靭な火竜が持つ熱を根こそぎ奪うほどの魔法なのだからな。
だというのにそれらを気にせず我に挑むのはどんな理由だ?
何度も何度も負け…いや、逃げられている以上は引き分けか?
ともあれ、それでもなお我に挑む理由は一体何なのだろうか。
会話が成立するなら聞いてみても良いかもしれない…そう思い、問うた。
<お前は何のためにここに来るのか>
とな。
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