第5話 ハザマ町のパン屋さん③
藤堂さんは言った。この二人は“パン”なのだと。
「アンナがあんぱんでー、リイがクリームパンなの!」
「本当……この人のネーミングセンスの無さには呆れます」
パンって、この店に並んでるパンのことを言っているんだよな……。
どう見ても二人は普通の女の子だ。もしかして、この町の人たちみたいに耳とか尻尾とかついているのかなぁ、なんてことくらいは思ったけど、これは想像の斜め上の展開だ。人型のパン……あっ。
俺は試しにアンナの頬を優しく引っ張ってみた。
「アユムー。どしたのー?アンナのほっぺたやわらかいー?」
「あっ……うん」
さすがに千切れないか。まぁ、もし千切れたら、それはそれでホラーか。
「あなた、ロリコンですか?」
「一応、違うとだけ弁明しておく。ちょっと試したいことがあって」
「私たちは愛と勇気だけが友達の彼とは違います。全くもって違います。友達は……いませんが」
なぜ、俺の考えてることがわかった。後、急にそんな寂しくなること言うな。
「この子たちのこと、気になる?」
藤堂さんの問いかけに、頷く。
「そう言ってくれて嬉しい。この町の人たちはみんな良い人ばかりなんだけど、普通の人間に対してはあまり親しげにしてくれないの。人間に疎まれたり、虐げられていたんだって」
そういえば、パンを買ったお客さんたちは俺とあまり目を合わせようとしなかったし、誰も笑っていなかった。
「だから、この子たち友達が全然いないの。店の外にも全く出ない。この狭間町でも、向こうの羽佐間町でも。だからね、もし良かったら二人の友達になってくれない?」
「アユム、アンナの友達になってくれるの?たくさん、遊んでくれる?」
アンナちゃんが両手で俺の腕を掴む。純真無垢なその目は期待と不安の色が混ざっているように見えた。
「ねぇ、どうかな?」
藤堂さんが俺の顔をじーっと見つめる。
「遊び相手くらい、なら……。学校帰りに寄れますし……」
途端に表情が一段と明るくなった。恥ずかしくなって思わず目をそらしてしまう。
「子どもですか」
「子どもだよ。悪かったな」
リイさん……いや、なんかむかつくから、もうリイでいいや。背格好も俺と同じ年齢ぐらいだし……あ、この子、パンなんだっけ。というより、なんでこの子は俺にこんなにも突っかかってくるんだ。
「あ、そうだ。それと……さっき実際に見たからわかると思うんだけど、この店、お昼とか忙しい時間帯があってね。一応、手伝ってくれる子は何人かいるんだけど、その……出勤が気まぐれで。唯一いつもいる二人は見ての通りだから……」
リイが怒った顔でそっぽを向く。いや、怒りたいのは藤堂さんだと思うぞ。
「だから、稼ぎたくてもなかなかお店を回せなくて困ってるんだ。そうなると溜まっていた家賃も払えない。つまり、私も困るし、町内会長さんも困る」
「ようは、俺にアルバイトで働いてくれないか、ってことですか?」
「察しの良い子はモテるよ」
「……ありがとうございます」
「じゃあ、決まりってことでいいかな?」
元々、叔父さんのところでタダでお世話になるのは申し訳ないと思っていて、バイトはやるつもりだったからちょうどいい。家も目と鼻の先だし、学校帰りにも寄りやすい。それに、性格に難がある子もいるけど、藤堂さんも含めて、3人とも美人だし、男子としてはモチベーションが上がる。それになりより、
こんな不思議で面白そうな経験、二度と出くわす機会なんて無さそうだから。
さっきまで後悔しといて現金な性格だと思うけど、そこはまぁ、まだまだ子どもということで。
「はい。俺、ここでアルバイトやります」
狭間町のパン屋さん。ウチの娘焼きたてですけど、お一ついかがですか? つかさ @tsukasa_fth
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