第3話 ハザマ町のパン屋さん①

 お客さんが持ってくるパンを袋に詰めて、金髪少女に教えてもらった値段をレジに打ち込んで、お代をもらってお釣りを返す。この挙動を何十回も繰り返す。去年、中学の文化祭で喫茶店をした時も結構な盛況っぷりだったけど、これはその比じゃない。

 途中、お客さんに「ちょっと遅い」とか「このパンもう無いの?」って注意されたけど、なんとかお店が落ち着くまで乗り切ることができたぞ……。


「お疲れさまです。自信ありげに申し出るから、てっきり出来るのだと思いましたが……及第点以下ですね」

「えぇ、そうですか」

 お客さんがいなくなった店内。金髪少女は俺を見下すように見つめながら、ため息をつく。本当に何もしてくれなかったな。鬼か。

「げっ……もう2時過ぎか」

 たしか、11時前にこの店にやってきたはずなんだけど……って、そうだ!

 慌てて店の扉を開けて外に出る。


「ここ……本当に羽佐間町なんだよな」

 周囲を見渡す。正面の道路を挟んだ向かい側の通りにはずらりと商店が並んでいる。この店に来る前に見た時とは違って、今度はほとんどの店が開いている。左側には駅。右側には長い道路の先に山が見える。まだ、ここに来て日は浅いけど、たしかにこの風景は羽佐間町商店街、そのものだ。

 だけど、通行人たちは明らかに変だ。変わった洋服や中には着物を着た人まで。人間とはちょっと違う外見を持つ人たちがあちこちを歩いている。あの女の人はずいぶんエロい格好してるなぁ……羽と尻尾が生えてるけど。

 ハロウィンは半年以上先だよな?


「視線が下劣です」

 いつの間にか俺の近くに金髪少女が立っていた。

「ここ、羽佐間町だよな?」

「何度も聞かないでください。ここはハザマ町です。それと、私を汚い目で見たらまた蹴り飛ばしますから」

 そんなことするか。余計なお世話だ。

「証拠は?」

「あの街灯に小さな垂れ幕がかかっているでしょう。ほらちゃんと見なさい」

 パン屋の近くにある街灯を見ると、たしかに垂れ幕がかかっていた。『町商店街、と。

「狭間町……商店街?」

「ここはね。君が知ってる羽佐間町とは同じだけど違う町なの」

 エプロン姿のお姉さんが真面目な顔をしてそう言った。

「この町は一体……?」

 すると、お姉さんは湯気の立つコーヒーカップとお皿に乗ったスコーンを俺に差し出した。


「まずは、お姉さんとお茶でもしながら、お話しよっか」

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