動揺 (v)
群がる武具からふっと顔をあげた彼らが見たものは、胸もとで両手の拳を小さく固め、ぽろぽろと雫をあふれさせる四ノ宮りつの姿。
「ケンカ……してるときじゃ……ない……でしょ……」
「りっちゃん……」
まどかとあまねが、泣きぬれる親友の愛称を口にした。「四ノ宮さん……」と隼冊が弱ったように彼女へつぶやき、力などのほか男子はばつが悪そうにうつむくなどし、視線をそらした。
「今は……私たちだけ……なんだよ……? ここにいる……私たちだけで……力、あわせなくちゃ……いけないんだよ……?」
「うん」「りっちゃんの言うとおりだよ」
「なのに……なのに……、ううっ……、道具の……取りあいとかしてたら……、えっく……えっく……、だめ……じゃない……」
「そのとおりだね。ごめん……」「りっちゃん、泣かないで」「すまん。つい、夢中になって……」「俺も……」「ごめん……隼冊」「羊……僕こそ」
「私は……、みん……みんなで……………がんばって……教室……戻……………うええーん」
両手で顔を覆って泣きだすりつを、まどか、あまねのふたりが寄り添い、肩や背中をなでつけなだめた。男子生徒はなにもできず、ただ、自分たちのさらした醜態を悔いた。
りつの指摘するとおりだ。教室に残ることのできた面々から「裏切られた」自分たちは、互いに結束しなくてはならない。でなければ、あの
泣きじゃくるりつを除いた4人の男子と2人の女子は、プール2、3個ぶんほどの先にたたずむ、不吉な色の猛獣に目を向ける。
くすんだ灰白色の前面で、唯一、
食物連鎖の頂点に君臨する捕食者そのもののたたずまい。生息するテリトリーのなかで何者にもたてつくことを許さない王者のにらみ。
先の戦闘でミナスの目つきを目のあたりにした力は思う。
動きだす前に敵を知らなくては。
モンスターの名前や能力などを確認すべく、ポケットから携帯端末を取り出そうとして、力は驚く。
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