動揺 (v)

 群がる武具からふっと顔をあげた彼らが見たものは、胸もとで両手の拳を小さく固め、ぽろぽろと雫をあふれさせる四ノ宮りつの姿。


「ケンカ……してるときじゃ……ない……でしょ……」

「りっちゃん……」


 まどかとあまねが、泣きぬれる親友の愛称を口にした。「四ノ宮さん……」と隼冊が弱ったように彼女へつぶやき、力などのほか男子はばつが悪そうにうつむくなどし、視線をそらした。


「今は……私たちだけ……なんだよ……? ここにいる……私たちだけで……力、あわせなくちゃ……いけないんだよ……?」

「うん」「りっちゃんの言うとおりだよ」

「なのに……なのに……、ううっ……、道具の……取りあいとかしてたら……、えっく……えっく……、だめ……じゃない……」

「そのとおりだね。ごめん……」「りっちゃん、泣かないで」「すまん。つい、夢中になって……」「俺も……」「ごめん……隼冊」「羊……僕こそ」

「私は……、みん……みんなで……………がんばって……教室……戻……………うええーん」


 両手で顔を覆って泣きだすりつを、まどか、あまねのふたりが寄り添い、肩や背中をなでつけなだめた。男子生徒はなにもできず、ただ、自分たちのさらした醜態を悔いた。

 りつの指摘するとおりだ。教室に残ることのできた面々から「裏切られた」自分たちは、互いに結束しなくてはならない。でなければ、あのモンスターから生き延びることはかなわない。


 泣きじゃくるりつを除いた4人の男子と2人の女子は、プール2、3個ぶんほどの先にたたずむ、不吉な色の猛獣に目を向ける。

 くすんだ灰白色の前面で、唯一、爛々らんらんと輝く目。離れた場所からでもはっきり見てとれるふたつのまなこは、獲物たる7人の高校生をじっと見すえていた。

 食物連鎖の頂点に君臨する捕食者そのもののたたずまい。生息するテリトリーのなかで何者にもたてつくことを許さない王者のにらみ。

 

 先の戦闘でミナスの目つきを目のあたりにした力は思う。

 ミナスあいつはなんだかんだいっても草食動物だった。牛と虎、両者と対峙した自分にはわかる。格の違いが。圧倒的強者の放つ凄み。肌に感じる怖気おぞけ。――こいつこそが真の肉食動物だ。

 ミナスのように、角を振りまわし悠長に追いかけっこを演じる、そんなつもりはさらさらない。隙あらばいつでも喉笛に食らいついてくるだろう。


 動きだす前に敵を知らなくては。

 モンスターの名前や能力などを確認すべく、ポケットから携帯端末を取り出そうとして、力は驚く。

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