動揺 (iii)

「みんなひどい……」


 四ノ宮しのみやりつが声を震わせた。

 教室内へ生じた不穏な光。体が青く包まれたとき、目に映る光景も生白く染まって見えた。

 字義どおりにも比喩的にも青ざめた級友から受けた仕打ちに瞳が潤む。

 伸ばした手を振り払った左木さき円月えるな、抱きつこうしたら突き飛ばした小分こわけ実整みせい、目があうと化け物を見たかのように叫んで逃げた椢方くぬがた四季しき

 助けを求めてすがったすべての女子がりつを拒絶した。


 りつだけではない。ほかの6人も全員がクラスじゅうから同様のあつかいを受けた。

 午角力、三宅みやけまどか、市川いちかわあまね、漂木ひょうぎ隼冊はやふみ、天戸羊、澤寅。

 グラウンドに立つすべての生徒が同じショックを共有していた。一致団結して「ゲーム」を乗り越えるはずの仲間にと。


 たしかにりつ自身、教室に残る立場にあったなら同じ行動をとっていたかもしれない。だが、そのようにおもんぱかる余裕など今はなかった。

 あるのはただ、もう、30人あまりのクラスメイトとはこれまでと同じようには過ごせない、その思いだけだ。


 


 7人の男子と女子は、ふいに背筋へぞくりとくる。

 だろう、それは。

 生きて帰れなければ、もはや仲たがいすらできないのだ。


 ふわりと眼前の宙空が輝く。

 空に溶け込みそうな淡いシアンの光に7人の視線が向かう。

 なにごとかと身を寄せあって警戒する彼らに、贈りものが届けられた。

 まるでごみでも捨てるかのようなぞんざいさでばらばらと投下される物品。剣に盾に杖にマント。


 唐突なできごとにぽかんとし、あるいはひるんだ彼らは、次の瞬間、弾かれたように装備品へ飛びつく。


「よこせっ」「俺が先につかんだんだ」「これは私のっ」「いっしょにあいつらを殺るんじゃなかったのか!?」「ここでくたばったらおしまいだ!」


 我先にと奪いあう6人に悲痛な声をあげる女子があった。「やめてっ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る