暴環 (xi)
私は、まるで7番目のアラーム音を聞いて跳ね起きたかのように(低血圧の私は朝が弱く、音が変化するスヌーズでアラームをかけている。たいてい、3-5番目で起きられるが、5番目辺りから時間的な厳しさが格段に増し、7番目は最後通牒。それで起きられなければ、まず遅刻はまぬがれない)、はっと外界へ意識が戻った。
(さらに余談だが、母は、中学までは遅刻ぎりぎりになると起こしにきてくれたが、高校に入ってからは自立をうながすためとして、いっさい手を貸さないと宣言したことに端を発する「事件」がある。
入学まもなくのころ、「そうはいっても、遅刻しそうなのに起こさない親などいないだろう」とたかをくくって、何度寝かわからない二度寝をむさぼっていた私は、ふと、いつのまにか嗚るのをやめたアラームをいぶかしがって、夢うつつにスマホと眼鏡へ手を伸ばし、片目を薄く開け、その、ちょっと理解できないようなでたらめな時間が、半分以上寝ている頭ではさっぱり解釈できず、一瞬、きょとんとし、次に「えっ!?」とすっとんきょうな声をあげ、その次に「えっ……、えっ!?」ともう一度、頓狂な声をあげ、「ちょっ……ちょっとちょっとちょっと、これなに、なんなの、なにこれ、えっ、なにこれ??」と、わめきながら飛び起き、ばさばさの髪を振り乱してパジャマを脱ぎ散らかし、壁にかけた制服をひったくって袖をとおし、ああ、千尋の谷に子を突き落とすライオンの話は本当だったのだ、と自分の甘さと母親の鬼の心を呪いながら、朝食もそこそこに家を飛び出たという、優等生の私としては痛恨の失態である。現時点で高校生活で3回しかない遅刻の1回目だった)
つまり、それほどの驚きを、
なにしろ彼は、目の前で私の左肩をゆさぶるという、きわめてだいたんな行動をとっていたのだから。
意識があちらの世界から帰ってきたばかりの私は、状況がまるで飲み込めず、脳内を無数の
まさか一足飛びに性的な関係を迫ろうというわけでもないだろう。まだ、つきあう、つきあわないの話どころか、プライベートな会話もろくにしていない段階だ。その関係で体を求めるなど、あまりに手順を省きすぎている。
たとえるなら、コンビニに入るなり勝手に蒸し器のガラス戸を開けてピザまんをつかみ(中華まんで1番好きな種類だ。2番目があんまん、3番目がカレーまんである)、あっけにとられる店員さんの前で(あるいは制止するのも無視して)頬ばるようなものだ。ひとことでいえば
恥ずかしながら私にはまだ……その……、男性……経……験……………どころか、異性との交際経験……がない……ため、男女交際が進展する具体的手順に明るくないのだが、ともかく、あるべき手順をコンビニでのたとえでいうならこうだ。
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