看破 (xiii)

「ゲーム」なのだから、終わればもとのとおり、なにごともなかったかのように日常は再開してしかるべき。ゲームはゲーム、現実は現実。

 VRでいくら重傷を負おうが死のうが、現実の肉体はかすり傷ひとつ受けないのと同じように。


 そんな力の願いを、アプリのヘルプのあちこちに登場する文言は冷ややかに突き放す。


『――は回復しない』『――した者は死亡する』『ダメージの回復は』『ステータス異常が』『場合、死亡』『負傷し』『は死亡』『負傷』『死亡』『死亡』『死亡』

 ――とてもただで帰されるとは思えない。


 ステージは97あるという。今、クリアしているのはたしか3つ。ということは、残り94のどこかでステータス異常を解消しなくてはならない。

 90以上もあると考えれば楽観的なイメージが湧きそうだが、もちろん、そうはならない。フィールドが命のやりとりの場であることを力は肌で感じた。

 一瞬の気の迷い、判断の遅れ、ミスには、容赦なく冷徹なジャッジがくだされる。「ゲーム」とは名ばかりで、リセットボタンもコンティニューもない。


 そんな場所で、モンスターの攻撃をうまいことすべて交わし、ステータス異常を解消、減ったHPもついでに回復して元気に帰還、災い転じて福となす、てか? 俺はそこまで底抜けに能天気じゃない。

 このまま正攻法で攻略しようとしても失敗する。そう遅くない時期に第2の犠牲者が――この計画の張本人を犠牲者と呼ぶことが妥当かは置いておくとして――出る。早ければ次のステージにも。

 なにか根本的にやりかたを変えていかないと。


 今やすっかりリーダーポジションに収まっている環に提言しようと目を向けた力は、その視線の途中で、先の戦闘での戦友の姿を見た。一八だ。

 ひとり、腫れものあつかいでぽつんと自分の席につく彼に、水代糸が話しかけている。

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