看破 (xi)

 教室内は重苦しい空気に包まれていた。


 前回のプレイヤーの片方、一八のふさぎ込みようが特にきわだって近寄りがたいオーラを放っていたが、もう一方の力もけして機嫌はよくなかった。彼も、一八とは別種の身体障害に類するステータス異常が発生している。足を引きずりながらでないと歩けないため、自分の席に座ったままでいる。

 ミナスに打たれた胸の辺りも痛みが引かない。アプリ「プリムズゲーム」上でもHPは2/3ほどにとどまっていた。ゲームならステージクリアで回復するのが一般的なイメージだが、この「プリムズゲーム」では負傷などは回復せず持ち越されると明言されている。

 一八同様、回復手段を渇望するが、フィールドへの拒絶感は彼以上だ。


 耳が聞こえない、言葉が発せられないのはたしかに戦闘で多分に不利となる。教室のサポートをじゅうぶんに受けられるかどうかは生死をわける。

 だが、まともに歩けないのはそれ以前の問題だ。逃げることはもちろん、フットワークがきかなければ攻撃を交わすのもままならない。

 先の戦いの終盤は、よくも防ぎきれたものだと自分でもあきれる。あのときは無我夢中だった。もう一度同じ状況に置かれたらきりぬけられる気がしない。


 足への制限は実利面にも多大な不都合をもたらすが、精神面への負担も大きかった。

 走ることは力の最も得意とするところであり、最大の喜びのひとつでもある。

 風を切り、土を蹴って、追い抜き突き放し、じりじりとタイムを縮める。短距離の疾走も長距離のランナーズハイも好きだ。妹のことで母親にぐちぐちと言われたりなどの嫌なことがあっても、ひとっ走りすればだいたいけろりと忘れられる。

 走ることは力の一部なのだ。肉体的だけでなく、精神的にも足をもがれたようなもの。

 このまま「ゲーム」が終了しても「ステータス異常」が残ってしまうのかどうか。そこが一番の懸案事項だった。

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