ペナルティーキック (xi)

 死の突撃が目と鼻先に迫って歯をくいしばる。


 刹那。

 空を切る音がした。


 ドン、との重低の響きとともに、ズザザザッとなにかを引きずるような音。

 全身を固め備えたダメージが不発に終わる。


 てんてん、とバウンドするボールと、人の駆ける足音。一八か。

 ばむ、とまたボールが蹴られ、攻撃を受けたミナスの図体が後退にあらがい踏んばる――うずくまって土の上をにらんでいる力にも、その様子がありありと浮かんだ。


「おい、ギューカクっ、生きてるかっ?」


 ボールを踏みつけ、相棒は力の安否を確認する。ミナスからは目を離さない。


 力は声とちからを振り絞って「ギリ、ぴんぴんしてる」と体を起こす。

 何トンあるかしれない怪物に堂々とにらみをきかせやがって。

 背の順なら前から数えたほうが早いような一八が、頼もしく見えるとは。


「戦えそうか? あばら、やられてたりしねーか?」


 問われて力は打撃を受けた辺りに触れてみた。


「つっ……、大丈夫だ。タンスの角で小指打ったぐらい超痛ぇけど、全然いける」


 いくらかのやせがまんは要したものの、骨や内臓に達するダメージではないようだ。

 たまに柔道部や空手部と間違えられるほど大柄の力だが、こんなアフリカゾウじみた化物の一撃をまともにくらって無事で済むほど人間離れはしていない。ゲーム上の効果で強化されているおかげで致命傷はまぬがれたらしい。じゅうぶん動ける。したたかな痛みに全力で無視を決め込む必要はあったが。


「俺の剣は使いきっちまった。おまえのボールでガシガシシュートをぶち込んで体力削れないか?」


 力の提案を兼ねた問いを一八は、ちょい無理、と却下する。


「さっきの色つきのやつみたいにパワーを上げないとあんましきかねーみてえ。武器の説明にあったけど、至近距離からの攻撃は逆にダメージが下がるっぽい」


 たしかに今、2発続けて叩き込んだが、最初に入れたイエローグリーンの一撃とは比較にならないほどこたえていない。

 加えて一八は、コントロールミスのリスクもある、と言った。


「俺もストライカーの自信があるし、なんか見えないサポートがきいてんのか、気持ちいいぐらいシュートが決まる。なぜか壁打ちみてーにきれいに球も返ってくる。でも、100%パーはありえねーよ。ちくちく攻撃して一発でも外したら詰むとかマジ勘弁」


 最後のはスマホゲーでの経験談だろうか、と力は思った。

 ボールの攻撃力をドリブルで高めようにも、にらみあったままでは動きがとれない。俺がまた囮になるしか。


 力がそう考えたとき、一八のポケットから環の呼びかけがあった。端末を取り出す。

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