ルール (xxiii)

 恐ろしい企みに巻き込んだことは許せないが、今のところはまだ直接の害は受けていない。授業やテストがむやみに難しいことを除けば、枡田は毒にも薬にもならない教師だった。みずからのはかりごとで命を落としたのだと思うと、なんだかかわいそうな気がしないでもなかった。


「あんたも湖西たちみたいにお人好しなわけ?」紅亜は、やり場のない不満と不安を払うかのように語気を強め、真帆をねめつける。「枡田のせいで超ヤバいことになって――」「みんな、聞いて」


 荒れ気味の彼女をさえぎって、クラス委員が呼びかけた。今度はなんだ、と環に注目が集まる。


「雑談している場合じゃない。10時前に次のモンスターが現れる」


 やぶから棒の発言は一同を驚かせた。

 なぜわかるのかと問いただし、先ほどからの言動で枡田と共謀しているのではと疑う者もでてくる。

 環はへきえきとして、自身の携帯端末を軽く掲げた。


「何度も言うけどアプリをちゃんと見た? メイン画面に、次のステージの始まる時間が出てる」


 言われて各自は端末を確認した。さまざまな情報が、同じ大きさのフォントでずらずらと並んでいて見づらいことこのうえない。

 目を凝らし探してみると、たしかに画面下部に時刻が示されていた。次回のステージがいつ始まるかとの重要な情報。教室内の湿度や外の気圧など、雑多なものに埋もれて気づかなかった。

 生徒は、アプリの設計者(枡田なのだろうか)の不親切さに不満をいだいた。もっとも、親切な人間はこのような催しをひらいたりはしないだろうが。

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