チュートリアル (xxxi)
携帯端末を通しての再度の報告に、短く枡田は「不正解」と言った。寅は「ええっ、合ってんだろ。5+3/2=4だから時速4kmが答えじゃないのか」と反論する。
「その計算式は正しくは(5+3)/2=4だし、この問題の答えじゃあない」
しゃべるあいまに、プルスのぶん回す角を紙一重で枡田は回避する。そのたびに風を切る音がスピーカーから発せられた。
「じゃ、どうやって解くんだよ。5/3とか5-2かよ」「いや、速度と速度を割ったり引いたりしてどうすんだよ……」「速度を微分して計算するんですか? 変化率とか求めて」
「発想は悪くないが、そこまで高度な知識は不要だ。小学校の算数の範囲で解くことができる」
枡田の声に混じって、がきん、という硬質で耳障りな音が響いた。窓の外で、枡田が敵の角を剣で弾いた。寅が「俺、小学生以下ってことかよ」とぼやいた。
「モンスターをある程度攻撃するとヒントが手に入る」
最初の2度以外、防戦にまわっていた枡田が突然、攻勢に転じた。
突撃するプルスを横飛びでいなし、見せた背中へ強烈な一撃をみまう。コブのようにごつごつとした背骨の浮き上がる背に、大きな裂け目が走った。プルスは見た目に似あわず甲高い声でいななき、転げ回った。
「今ので決まったんじゃない?」と
「見てっ」
かつかつというチョークの音とともに、黒板に文字が書き込まれていく。誰の姿も、チョークの影もなく、ひとりでに。たとえ透明人間のしわざだったとしても、チョークのひとつぐらいは浮いていてもいいのではないか。この場ではもう、なにが起こっても不思議ではない、そんな空気が生まれつつあった。
あっけにとられてクラスが見守るなか、問題文に新しい文言が追加された。
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