ホームルーム (vii)

「僕はこのゲームをこう名づけた」


 枡田は背を向け、かかかっ、と黒板にチョークを走らせた。暗緑色の板の中心にひとつの語が書き込まれる。


  プリムズゲーム


「プリズムゲーム?」とともえ一直いっちょくが首をかしげた。


「『プリズム・・』じゃなくて『プリムズ・・』ね」枡田が注釈を加える。「素数を英語では primeプライム というんだけど、『プリムズゲーム』の名前はそこからきてる」


「なんで『プライムズ』じゃなくて『プリムズ』なんですか?」


 トレードマークの黒縁眼鏡に手を当てて問う椢方くぬがた四季しきに「いい質問だ」と枡田は首肯した。「本当はそうなる。ただ、それだといまいち語感がよくなくてね」


 素数という味気ない単語はある意味強力だった。少し耳を傾けた生徒たちは早くもしらけはじめた。どうも素数を使ったパズルかなにかをやるつもりらしい。紅亜の言った魔方陣よろしく、ずいぶんと「スリリング」なお遊びのようだと。


「この名前にはいろんな意味を込めてあるんだ。ぴったりのネーミングだと自画自賛しているよ」


 ぞっとしない顔つきの教え子に、枡田は意気揚々と話して聞かせる。興味を失った生徒は、あくびをしたりスマートフォンのゲームについて話すなどしていたが、意に介さない。彼には確信があった。

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