ペナルティーキック (xxxi)
手もとに目を落とす。先ほど走ったぶんだけほんの少し、数センチばかり刃の伸長した
深く息を吸う。このふざけた剣をマジックハンド代わりに使うだって?
地面を蹴って走りだす。ふざけた剣を使ったふざけた作戦、そりゃなんとも名案、いや迷案だ。
駆けながら力は内心、悪態をつく。ゲームのキャラならかっこよく敵を斬って蹴散らすってのに、俺がやらされるのは、池に落ちたボールを棒でつついて拾うようなまねかよ。そういえば昔、妹が池へゴムボールを落としたときにそんなことをしたっけ。岸から離れてしまって妹は泣くわ母親にどやされるわ。さんざんだった。
環が一八に作戦を説明し、ボールのほうへモンスターを近づけないようにと指示する。携帯端末が拾った音声で聞いていた力はげんなりした。
狭い範囲をぐるぐる走りまわって剣を伸ばす――なんだこのシュールな
汗だくの一八は、遠目にもわかるほど見るからにばてていた。比較的、走る量の多いスポーツとはいえ、純粋に走ることに特化した力にはおよばない。
――まずい、あの調子じゃもうそんなもたねえぞ。
自身の引き起こした失態が、クラスメイトを苦しめ窮地に追いやっている。
先ほどの痛烈な一撃を思い出す。静止状態から繰り出された蹴りであのざまだ。象のような巨体に体当たりされようものなら、よくて瀕死、踏みつぶされれば肋骨も背骨もばらばらだ。
剣の長さはようやく手のひら程度。今にもへばりそうな相棒の苦悶の表情。間にあうわけない。
瞬間、力は今なすべきことを見定める。
天啓に身をゆだねるように、考えるより先に体が動いていた。
「午角くんっ」「ギューカクっ」
力の突然の行動に、環や征従たちは声を張った。
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