竜の召喚士

第17話第2章プロローグ

僕は夜の海にいる。一人きりで立っている、足元に波が規則的に白い泡とともに押し寄せている。またここに来てしまったようだ。星のない“夜の海の神殿”だ。神殿かどうか分からないが僕はここをそう呼ぶことにしている。無数の石柱が等間隔でならんで生えており海辺も海も問わずに地上からはるか空までそびえている。眼前の海は黒く果てしなく続いている。空を見上げても石柱がどこまで伸びているのか不明だ、漆黒の空の彼方まで続いている。柱の陰に烏女がいる。黄色く輝く双眸は僕に何かを訴えているのだろうか。彼女は薄くなり消えていく。以前もこんな光景をみた気がする、そう、ここは多分夢の中、起きれば記憶は流れて留めておくことはできないのだろう。



―――ほんの短い時間寝ていたようだ、僕は電車に乗っている。電車内の窓から見える駅ホームの電光掲示板は午後4時12分、もう夕方か、平日だし乗客はまばらだ。僕は自分の手を見る、背丈の合わない服は封印し手足は服から出している。今も着ているが結局タイガーセンセの黒と黄色のジャージは貰ってしまった。


桔梗との死闘に勝って、たった数日だが僕を取り巻く環境はまさに・・・まさに激変したのだ。とりあえず自分も少し変わった、あれから隠すのも何となく変だし仕方なく顔は見せて生活しているわけだ。


そうそう、ついでに今日も本当に色々あった。僕は慎重な方だが予想外なイレギュラーなことは起きるものだ。まあ今日はいいことも珍しくあったわけだが。

いいことと言えば自分の竜と再感合を続けているためか、以前よりTMPAが跳ね上がっているせいか、もしかして竜気(ドラゴニックオーラ)に目覚めているためか、理由は良く分からないが、とにかくあいつらが僕の身体に埋め込んだ呪詛の効力がやや弱くなったのか。身長が急に伸び出したのだ、数日で3㎝程も伸びている、夢の身長160㎝まであと少しだ、自分でもわかる―――大分男っぽくなったはずなのだ。


「―――あのすいません、ちょっといいかな?」

(はあ?)


知らない高校の男子から話しかけられている。男子高校生の後ろの窓の景色は電車が進むにつれて動き出す、あまり電車に乗らないのだ僕はどうでもないことが目に留まる。この男子高校生の仲間らしき連中が3人ほど向こうで離れて応援しているような仕草しぐさをしている。


「な、なんでしょう?」

「あの俺達、暇なんで、もしももしも良かったらお茶でもしませんか?もちろんおごります。それかどっか行きたいとこありますか?」

(お茶に誘われている?・・・まさか。)


これは友達になろうよキャンペーンのボランティアの人達ではなくて、何かの勧誘でもなくて。まさかのナンパだろうか?僕を?・・・とりあえず適当に断ろう、妙なものと関わるのは御免だ。


「いえ、間に合っていますので。」

「あーお忙しいですよね。やっぱり、・・・あのすいません、IDだけでも交換できますか?」

「・・・端末持ってないので。」

「あーーすいません、じゃあまた今度何かの機会によろしくお願いします」と言って名も知らない男子高校生は頭を僕に下げて仲間のもとへ去っていった。


(勘弁してくれ、マジで、マジで、マジで)

やってられない僕は座りながら、ふーっとため息をつく。


なんかあの男子高校生4人組はこっちをチラ見しながらボソボソ喋っている、霊眼発動・・・何を言っているのか聞いてみよう。


「やっぱだめだったか!」

「どう見てもダメだろ、おまえ勇気あんなー」

「つうか、バカか!名前くらい聞けよ!」

「で?どうよ、近くで見て」

「吐きそうなぐれー美少女だった、声までかわい―――」

「デビュー前のアイドルじゃねえ?」

盗み聞きは止めよう、ロクなことしゃべってない、こいつら知能低い。僕は頭をフルフル振っている。目もおかしいんか?おまえら、僕は男だ!


・・・おかしい―――おかしいぞ、背が伸びたはずなのに今日朝から3回目だぞ、同性からのナンパは・・・。やはりあれか、理由は分かっている。


・・・僕は自分の足元を見る。ジャージの裾を上げると借りパクしたタイガーの茶色い靴は小さいリボンが着いているのだ、そんなに目立たないはずだが、このリボンを見て多分・・・女性と勘違いするのだろう、それなら仕方ない。そうに決まっている。あー髪も長いからな、それもあるか。髪はしかし切れないのだ、大事な触媒になるから。


・・・それにネットとか見ないのか、あいつらは。僕は携帯端末無いから見れないが。今日はこないだ降魔六学園で行った地方戦の“六道召喚記念大会”の全国大会決勝トーナメントが国立闘技場で行われ、さっき優勝したのだ。

今はその帰り道、僕の写真もうネットニュースに出ているでしょう。


男子高校生4人組は僕に手を振りつつ降りて行った。あと六つ先の駅が僕の降りる“降魔六学園中央” のホームだ、まだ20分くらいかかるだろう。

しかし。しかし僕だけだぞ、電車で全国大会の会場まで行き来しているのは。


降魔六学園からは第2高のプリン石川だっけ、あと第4高のなんとか、それから第1高のなんとかなんとかって名前の奴と第6高校の僕の4名が参加したわけだ、今日の全国大会。しかし僕は人の名前覚えるの本当に苦手だな~。

第2高と第4高は専用バスで、教官にコーチもマネージャーも応援団も参加していた。第1高はヘリコプター数台で会場入りしたらしい。そして僕の関係者はというと、担当教官、鳥井大雅先生、通称タイガー26歳独身は第4高校と第6高校の生徒同士の乱闘に関連した査問委員会に出頭していて不在。第6高校は今日中間テストなのでZ班の連中は試験、結局やっぱり僕一人での全国大会参加となったのだ。

しかしここまでは些細な話。とにかく大問題は、とにかくありえないのは交通費が自腹でっていうことだ、これって請求できるんだろうか、一番の問題だ!あぁ、チンプンカン高校のあいつらが報酬を踏み倒さなければ。あの4万円さえあれば・・・。

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