テンプレ大戦 ~外れスキル男の俺、美少女賢者と共にチート主人公たちとのデスゲームを勝ち抜く!

谷尾銀

【00】introduction


 黄昏色に燃える空。

 地平の果てまで続く赤土の荒野。

 大地を埋め尽くす黒いうねり。

 そのひとつひとつは巨大で、この世界のどの生き物とも、似ても似つかないおぞましい姿をしていた。

 それらはみな、異世界からやって来た不浄なる邪神の軍勢であった。

 その異形の軍隊は、砂ぼこりをあげながら、かろうじて獣のそれに見えなくもない四肢で駆る。

 地にあるすべてを蹴散らして飲み込み蹂躙する。

 その蛮行を止めるべく、大国の魔法兵団が一斉掃射。

 のちに馬よりひとまわりも大きい騎竜に乗った五万の騎兵隊が突撃を慣行する。

 しかし、大神殿の石柱の様な脚で踏み潰され、粘液を滴らせた触手で薙ぎ払われる。

 食中植物の花弁のごとき口腔で、騎竜ごとむさぼられ噛み砕かれる。

 結果、無惨な血煙と共に大地へと赤い肉花を咲かせるのみであった。

「う……撃て! 撃て! 撃てぇええっ! 魔力を惜しむなっ!! 最大火力!!!」

 指揮官が射撃陣形に整列をなした魔法兵団に号令をくだす。

 再び大魔法が乱れ飛ぶ。

 炎、雷、そして嵐が吹き抜け、冷気がすべてを切り刻む。

 地を揺るがせ、穿ち、裂く……。

 それらは、小さな町ならば一瞬で焦土と化せる様な、そんな威力であった。

 もうもうと立ち込める土煙。

 その向こうから一筋の光線が飛来して、魔法兵団を左翼から右翼へと薙ぎ払う。

 閃光。直後の大爆発。

 かくして十万もの大軍は、ものの五分も持つ事はなかった。

 そのまま邪神の軍勢が、荒野の縁にある城塞都市へと迫る。

 堅牢な外壁。

 幾重にも重ねられた魔法的防御。

 何人なんぴとたりとも通す事はない頑強巨大な門扉。

 これまでの流れを見たものならば、それが何の意味をもなさない脆弱な紙切れである事は良く理解できたであろう。

 これから始まる大破壊。

 無慈悲な鏖殺おうさつの宴。

 迫り来るそれを物見櫓ものみやぐらで単眼鏡越しに覗き込む兵士の顔が、諦めの色に染まりきったそのときだった。

 外壁の門と迫り来る不浄なる軍勢との真ん中に、杖に股がって飛行する白ローブ姿が降り立つ。

 灰色のマントをなびかせた十代半ばの華奢きゃしゃな少女。

 暮れなずむ夕日を映し出す眼鏡越しに邪神の軍勢を睨めつけながら、長杖を掲げその柔らかな唇で呪文を紡ぐ。

 詠唱が終わり、少女が両手を振り上げた瞬間だった。

 空がすべて星々の煌めく闇色に染まり、燃え盛る隕石群が邪神の軍勢に降り注ぐ。

 割れた地が跳ね上がり、世界が震えた。

 爆発と形容する事すらおこがましい超威力。

 それはさながら、振り下ろされた怒れる神の鉄槌の様に大地を粉々に割り砕き、叩き貫いた。

 熱風が駆け抜け、不浄なる者共が灰塵へと帰してゆく。

 地獄の様な断末魔。

 触手が千切れ飛び異形達は汁と肉を振り撒きながら焼き尽くされる。

 少女はそんなこの世の終わりじみた光景の中で平然と佇んだあと杖に股がり再び宙を舞う。何時の間にか闇色の星空は元に戻っていた。

 その小さな飛翔体は血の様な夕焼けに浸かりきった世界を飛び回り、邪神の生き残り達にとどめをさしてゆく。

 炎、雷、吹雪、竜巻……少女が織り成す、ありとあらゆる攻撃の魔法。

 それらはすべてが、ついさっきの魔法兵団のものよりも比べるべくもないほどに優れていた。

 やがて、日がどっぷりと暮れた頃だった。

 無数にいた邪神達は最後の一匹となった。その死にかけた最後の邪神の頭の上に、少女はひらりとローブの裾をなびかせて降り立つ。

 邪神は馬鹿にされたとでも感じたのだろうか。不愉快そうな金切り声をあげて、頭を振り乱し、無数の触手を伸ばして少女へと襲いかかる。

 しかし、少女は再び長杖で浮かびあがり触手をかわすと、不敵に微笑んで右手を眼下の邪神にかざした。

 その瞬間、異形の巨体は一瞬にして石となり砕け落ちる。

 こうして彼女のお陰で世界は救われたのであった。


 このあと少女は五千年の長き眠りに就く。

 そこで待ち受ける新たな物語に備えて――。


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