雲は流れる
無花果 涼子
第1話
光って見えた気がした。
深い眠りに気づかぬうちに落ちていたらしく、何か光るものを感じ、一気に緊張感が体を走り目を開けた。
机に散乱した論文とその資料は、丁寧にまとめたはずなのに、気づかぬうちにバラバラとなっていた。
また一からまとめ直すしかない。
億劫だ。
時計を見ると既に日をまたいでいた。
一体何が光ったのだろうか。
頬がムズムズして、なんだろうと手を当てると、そこには涙があった。
私は一体何に泣いていたのだろうか。
夢の中で、深い夢の中で、誰か大切な人を失ってしまったのだろうか。
夢の中で確かに光り輝いていた。眩しいくらいに。強い強い光だった。世界中を飲み込むような。
あれは、本当に夢だったのか。
あらこれと考えながら、私は散らばった資料をもう一度集めた。
資料はごちゃ混ぜとなっていて、よほど寝ながら暴れていたようだ。
卒論を書くにあたって、ある戦いについて調べていた。その戦いは、今から16年前にあったものだ。多くの人が亡くなった。私は当時5歳で、その戦いで亡くなった人の数の中に、優しかったお爺ちゃんも含まれていた。国からは、祖父が戦死した。との手紙とつけていった名札だけが届いた。
亡くなったのは祖父だけではなかった。
私の父や、私の仲の良かった友達の祖父も亡くなった。
私がこの戦争を卒論にしようと思ったのは、祖父の命を奪った戦争の実態を知りたかったこともあるのだが、こんなことを言っては失礼だとは重々承知だが、対して戦力にもならないだろうに、祖父は戦争へ行かなければならなかったのか。
また、もう一つちょっとしたことなのだが、以前、夢の中でお爺ちゃんが現れ言ったのだ。
「戦争について調べよ」
と。
もう一つ何か言っていた気がしたが、そこがよく覚えていない。ただ、それがとても大切なことであることはなんとなくわかっている。
もしかしたら、お爺ちゃんの言う通りに、かの戦いについて調べればお爺ちゃんが言いたかったことがわかるかもしれない。そう思って、卒論に選んだ。
まだ、調べ始めたばかりで、先の大戦については人並みにしか知らない。
16年前に起きた戦争、日世世界大戦。通称日大戦。この戦いに借り出した日本男子はおおよそ800万人。対して敵は世界の大半の国。数は不明。日本の徴兵の規定年齢は20歳以上のすべての男子であった。その為、私のお爺ちゃんも借り出された。大戦は1ヶ月で収束したものの、日本の死者数は500万人に登った。当時のニュースでは、こんなに多くの死者を出したとは放送していなかったはずだ。しかし、時が経つにつれ、どんどんと死者数は膨れ上がっていた。また、敵国諸国の死者数は開示されておらず、どれ程の被害が出たのかは不明であった。
昔は遺族たちから、正確な情報を発表しろというような騒ぎもあったが、今ではすっかり影を潜めてしまった。
時計が時刻を告げる。明日は早い。明日というよりかは今日だが。丁度散らばった資料もまとまったことだし、寝たほうが身のためだろう。
「おやすみ、お爺ちゃん」
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