ティノと魔法のヴァイオリン Ⅰ 「魔法の樹と思いやりの都」
天野祐嬉
プロローグ
昔々、イタリア国のクレモナという街で、夕陽のように紅く輝く、それはそれは美しいヴァイオリンが造られた。
そのヴァイオリンの音色は、天から降り注ぐオーロラのように幻想的で、ダイヤモンドをちりばめたように純粋で美しく、人々の心を至福の園へと導いた。
人の喜びや幸せを奏でれば、天国の高みまで連れて行ってくれ、悲しみや苦悩を奏でれば流るる涙を禁じ得ないほど、切ない音色となる。
まるで、そのヴァイオリンには、人の魂が宿っている様だった。
テールピースには、聖なるひとり子の誕生が刻まれ、ヴァイオリンは、ストラディヴァリウス“メシア(救い主)”と名付けられた。
ストラディヴァリウス“メシア”は、やがて、ヴァイオリン界のking of kingと人々から賞賛されたが、固有のヴァイオリニストに渡ること無く、長い年月眠り続けている。
ストラディヴァリウス“メシア”を造った人物こそ、リウターイオ(弦楽器制作者)の天才と言われ、志向のヴァイオリンを造り続けた、アントニオ・ストラディヴァリだ。
彼は、一千挺を超える弦楽器を、世の中に送り出したが、唯一このストラディヴァリウス“メシア”は、誰にも渡さず生涯彼の手元から離れる事はなかった。
なぜ彼はストラディヴァリウス“メシア”を造り、手放さずに生涯持ち続けたのだろうか?それは誰一人解らぬ謎となった。
それだけではない、彼は、魂が宿る美しい音色を生む為の樹木やニスの秘密全てを消滅させ、あらゆる事が封印されてしまった。
その謎のストラディバリウス“メシア”が造られてから二百十年目、クレモナで名だたるリウターイオの家系であるアルベルティ家に、男の子が誕生した。
男の子は、ティノ・アルベルティと名付けられ、ヴァイオリンを造る事を宿命付けられ、幼いときから、ヴァイオリンに囲まれ育てられた。
ティノが誕生した当時、世界を巻き込む戦争が始まり、殺戮の嵐が吹きまくる時代だったが、その世情不安な中でも、ティノは心優しい家族に見守られ、思いやりの心を大切にして、黙々とヴァイオリン造りを手伝い続け、独りでヴァイオリンを造れる程に成長した。
ティノが十六歳となった時、彼に人生の大きな転機が訪れようとしていた。
それは、天から託された「魔法のヴァイオリン」を造る使命を担うことから始まった。
彼が担う使命とは、悪魔 “ザルーラ ”の魔力によって戦争に明け暮れる人間世界を「魔法のヴァイオリン」により生み変え、平和な世界をもたらす道だった。
この物語は、ティノと仲間達が、「魔法のヴァイオリン」を造る為に織りなす、困難と立ち向かう旅を綴ったもの、その旅の一部始終を語ろうと思う。
そして、もう一つ、この物語の中で大切なことを伝えなければならないと考えている。
その大切なこととは、私達が生きる世界で聞こえる、或いは伝える「音」についてである。
そもそも、人間の声(言葉)、動物の鳴き声、小鳥のさえずり、そして、ヴァイオリンなど楽器の音、美しいハーモニーの音楽など「音」は何のために有るのだろうか。
音によって成り立つ様々な出来事を想像すれば、音が人間の暮らしで重要な役割をになっている事が解る。
その「音」にまつわる様々な出来事は、物語の中で登場する「音の妖精」が伝えてくれる。読者にとっては、聞いた事も見た事もない話かもしれないが、音の妖精が、音創りに大切な仕事を担っている事を、きっとお分かりになると思う。
人間の喜怒哀楽、幸せ、そして愛、全ての表現が「音」で成り立っている事を、物語の中で痛感するだろう。
前置きはここまでとして、ティノとその仲間達が造る「魔法のヴァイオリン」の
魔法の力が、読者にも伝わる事を祈りながら、早速、物語を始めることにしよう。
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