第2話


 一年前、父が癌だと発覚し、僕は買ったばかりの中古自動車で父を病院まで送り届けたが、その後は「仕事が忙しい」という言い訳をして父の見舞いには一度しか来ていなかった。




 元々、僕は父が好きではなかった。


 父はいつも僕に冷たかったし、何の評価もしてくれなかった。顔を見てはなんのかんのと小言を言ったり叱ったり。父と顔を合わすのが嫌で堪らなかった。


 父が会社の接待で飲んで帰ってくると、必ず僕の部屋に来て説教をする。


 妹にはそんなことは全くしなかったのに。


 父は妹が大好きで、妹も父が大好きだった。

 でも、僕は大嫌いだ。

 だから一度も見舞いには来なかった。



 しかし、母は小さい頃の僕は父親っ子だったと言う。

 幼いころの僕は父が大好きで、父が出勤する度に泣いたという。


 しかし、残念ながらそんな記憶は全く無い。


 叱られたり、無視されたり、冷たい視線で見つめられた記憶しかない。

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