記録、あるいは設定のような何か

文書番号:AK5089


 これは武江良・R・炉端氏の口述に基づく、仮称『五輪村』に関する記述である。村の環境、文化、宗教、技術を鑑みて、暫定的に秘匿レベルA、『異界』に分類する。


1.地理

 その村は周りをぐるりと山脈に囲まれた盆地にある。盆地は10 km×10 km の正方形に近い形で、外輪山は険しく、外界との接触を拒むかのごとく木々が鬱蒼と生い茂る。武江良氏はY県東端から村に入ったと言う。

 盆地の中心かつ村の中心には、樹高115 mに達する巨大なセコイアが屹立する。住民達が御神体とするその木はハイペイロンと名付けられている。

 盆地南方には湖がある。

 

2.気候

 四季が存在する。年間の平均気温は15度前後、降水量は1500 mm。降った雨は緩やかに湖に流れ込む。湖の推移、面積は安定しており、水は盆地はほぼ盆地内部で循環していると考えられる。激しい降雨・降雪の記録はない。


3.経済・産業

 人口9867人。全ての住民が農業・畜産業に従事する。貨幣経済は存在せず、物々交換や譲渡で成立する。機械工業や服飾などの工業は住民の知的好奇心と開示欲求、いわゆる趣味で賄われる。


4.文化・科学

 人間を木の精霊とする宗教的哲学が存在する。樹木が魂を宿す本体であり、人間としての体は仮初めの器である。赤ん坊が生まれると、その1年前に芽吹いた木で、一番元気なものが、その子供の魂を司る木、運命樹として選ばれる。木はその家に植え替えられ、子供は木と共に育ち、大人になり、老いて死に、その魂は運命樹へと還って行く。

 盆地内部の樹木の発生は完全に調査・把握されている。過去には人力で調査が行われていたが、昆虫型のドローンに移行している。農作物の防虫もこの昆虫型ドローンが担い、農薬も開発されていない。

 科学技術は極めて高い水準にある。前述の宗教的背景からか、医学や薬学の分野はまったく触れられず、代わりに機械工学が特異的に進化したと考えられる。エネルギーは葉緑体を利用した太陽光発電を主軸とする。発電素子はバイオプラスチックに練り込まれ、建物の屋根、自動車の筐体、衣服などで発電される。

 拳銃の形状をした小型のレールガンが狩猟用に作られている。

 人間・樹木のともにを感染症の記録はない。長い年月を経て共存関係が醸成され、平衡に達していると推察される。

 詳細は不明だが、オリンピックが開催される年に、外界から人間が訪れるとされる。五つの正円を正五角形に並べたものがシンボルとして、公共施設をはじめとする随所に使われている。


 報告者、武江良・R・炉端氏は現在、当財団が保有する医療施設にて療養中。肉体・精神への汚染は見受けられていない。

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