3章『サンシュウの街の主と従者』次回予告
晴れた空の下を華美に飾り立てられた馬車がゴトゴト走っていた。
その中では黒髪の少女がほっそりとした肢体をだらしなく座席に投げ出し、街娘のように鼻歌を口ずさみつつ手紙を読んでいる。
その対面には色黒の男が足を組みながら座っていた。
馬車に座っていても天井が頭に届きそうな長身でしっかりと鍛え上げられた身体に女性ならばうっとりとするような甘いマスクをしたその男は、苦りきった顔で
「まったく行儀が悪いぞ、君は」
まだ女というよりは少女に近い彼女を嗜めつつ油断無く窓の外を見張っている。
「うるさいなあ…長期休暇でやっと実家に帰れるんだから好きにやらせてよ、学校では優雅に華麗に過ごしてたでしょ?」
少女は貴族の令嬢らしいが、その仕草はまったく貴族らしくない。
アメリアが見れば目を吊り上げてお説教するところだろう。
しかし場車の中には二人しか居ない。
「あなたこそ、飽きもせずにそうやって代わり映えしない景色をよく見てられるわね」
少女の口調から男と親しい仲ではあるようだが、男の方は佇まいを崩さずに、
「仕方が無いだろ?帰郷についていきたいというご友人達を放ったらかしてさっさと帰ろうとする主の身を守らねばならないのだからな」
皮肉めいた口調に少女は何も言いかえせないようで、その代わり大きな瞳と桜色の唇を精一杯尖らして抗議の代わりとする。
「そ、それよりこれ読んでみなさいよ」
見ていた手紙を男に手渡すと、内容を見た彼が「ほう……」と一言だけ呻き、皮肉を込めたように唇の端をつりあげる。
「あの小僧がこんなことをね…大方あの従者たちの尻拭きをしてやったんだろう」
その反応が気に入らなかったのか、手紙を彼の手からひったくるように奪い取る。
「よく読みなさいよ、大事なことは内容じゃなくてそこに関わった人間、そこが大事なところよ」
「ほう、それはどういうことなのか説明してくれるかね?講師よ」
とても仕えているとは思えない皮肉な態度にも慣れているのか、あてつけるように得意げに講義を始める。
「大事なことは今回の原因になった人物よ。それが誰から派遣されてきたかね」
「ふむ…例のメイドかね?グランスカル家から派遣されてきたようだが、確かオルド卿と先の戦で親交が出来たと聞いてはいたがな」
顎に手をやりながら涼しい顔で思案する。
その仕草も一枚の絵画のように様になっている。
「そう、あのいけ好かないキザなお坊ちゃんとどういう関係か問い詰めないとね」
美しい微笑みにサディスティックな何かを込めながら言う少女に従者の男は冷や汗を一筋垂らしながら、
「今回は同情するよ…あの小僧にな」
それだけ言うのが精一杯だった。
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