2章メイドは唐突に『エピローグ』
ムランがダランの屋敷で大立ち回りをしてから数日が立った。
心配していた襲撃も無い。
ヨシュウの街は平和で、もちろん宮城もあいも変わらず静かなものだ。
唯一、変わったことといえば宮城にやってくる使者の数が多少減ったことくらいだが、ムランにとってはそれも喜ばしいことだったので特段気にしていない。
「それにしてもあれだけ暴れまわったってのに、兵士どころか使者すら送ってこねえな~、つまらねえぜ」
中庭で槍を振り回しながらスアピが物騒なことを言う。
その横ではムランが日課となっているイヨンの髪梳きを行っていた。
上機嫌なイヨンの赤宝ともいえる髪を丹念に手入れしながら、彼もまたこの上なく機嫌が良い。
「変なことは言わないでください……何も無いのならそれが一番ではないですか」
スアピを嗜めながらアメリアがお茶をテーブルの上に置く。
「わからねえぞ?油断させといてからの奇襲ってのもありえるかもな」
物騒なことを言いながらも楽しそうにしているスアピにアメリアの表情が一瞬曇るが、
「ああ大丈夫大丈夫、きっと何もしてこないよ」
あっさりと言い切りながらムランは愛用のクシを置き、アメリアの入れてくれたお茶を美味しそうにすする。
猫舌であるイヨンはお茶が冷めるのを待ちながら頭をムランのひざの上に乗って無邪気に過ごしている。
「どういう意味でしょうか?」
不思議そうに問いかけるアメリアにムランはもう一度カップに口を付けながら、
「衆人環視の前であんだけ転がされて、私怨で兵士を動かしたら今度こそあのお方は終わるだろうからね、ちょうど口さがない旅の商人達も王都に着くころだろうし、タイムリーに噂が広がっているだろうさ」
それを聞いたスアピが口を歪ませる。
「お前も腹黒いね~、大方お前が行商人達にそれを話したんだろう……あのオッサンが動けないように」
「あっ……!」
「む~、どうしたの~?」
「う~ん?別に何にも無いよ」
驚くアメリアにニッコリと無邪気に笑い、手元でイヨンの髪を弄びながらムランはそれを否定も肯定もせずにお茶を飲んでいる。
驚愕な表情を浮かべたがアメリアはすぐに元の鉄面皮に表情を戻した。
いちいち主の行動に感情を出していてはメイドは務まらない。
冷静になって空になったカップを回収しながら、
「お茶のお代わりをお持ちします。スアピさんはどうしますか?」
「おう、俺もいただくわ」
返事を聞いて台所に戻ろうとするアメリアにスッと近寄り、
「なっ?怒らせるとすげえ恐いだろ?」
嬉しそうに同意を求めた。
そしてアメリアも、
「ええ……とても素晴らしい主ですわ」
と満面の笑顔でそれに応えた。
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