第2話 「男は待つ」




この世界も、地球と同じく、人口は七十億人ほどである。

その中に一人の特異な男が存在した。

彼は名を、「前羅ぜんら 太樹たいき」という。

彼は他の人間とは大きく異なった性質を持っていた。

なんと、彼は待つ人間なのである。

この世界で待つことを行うのなど、彼一人だけなのである。


前羅はこう言う。

「俺は待たなきゃ感じねぇんだ」

この言葉の意味がどのようなものかは定かではないが、前羅が常人ではないことはひと目でわかる。


前羅は本当に変わったやつなのである。


これではわかりにくい点があるのでいくつか例を挙げていくとしよう。


まずは電車だ。

この世界の人間は、電車を待つことが出来ない。

したがって、待てずに線路を歩き、ひかれる。


アホだ。


だが前羅は違う。

彼は電車を待つのである。

しかし彼は変わっている。

始発から終電まで一度も電車に乗ることなく待ち続けるのである。

しかも、冬の寒い日はパンツ一丁で待ち、夏の暑い日はパンツ一丁に全身貼るカイロで待つのである。

彼が待てる理由は誰にもわからない。

彼しか知らない。


例えばそう、テレビ番組。

この世界の人間はCMが終わるのを待てない。

したがって、CMが始まると即チャンネルを変える。変えた先がCMならまた変える。


CM四つぐらい待てよ。と、思う。


だが、前羅は違う。

CMが終わるのを待つのである。

しかし、彼は変わっている。

CMが終わるとチャンネルを変え、CMの流れているチャンネルを付け、またCMが終わるのを待つ。

つまり、彼が番組を観ることはほとんどない。

しかもCMが終わるのを待ちながら、彼は逆立ち二分を繰り返すのである。

彼は二分も待つのである。


やはり彼は特異な人種である。

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