フヨウの発電所

数日休みを置いて、フヨウと発電所作りに向かう日が来た。フヨウは設計図の書かれた紙ぐらいしか持っていない。

「まずは山中腹!!」

 外輪山に移るのは、上に回転する板がついた乗り物にフヨウが変身し、移動した。四輪駆動に変身された時も驚いたが、あの船の船員たちはやたらと、母星の情報を持ってきていたようだ。山中腹にはまた四輪駆動になってもらって移動をする。

「失礼だがフヨウ。この乗り物は君なんだろ。ならもう少し揺れないようにしてくれよ」

「面白さがわからないやつだな王は。重力に持ってかれる感じがいいんだろ。」

見た資料はレースなんだろうか、それもろくに舗装されていないような道のレースだったのかもしれない。

「ヤマメの重力練習にでもつかってもらえよ…」

山肌は定期的にガロウとモモワがしている野焼きによって草原になっているが、所々に山がかつて活火山だったということをものがたる大きな岩が見える。

「ホウライのいる洞窟からたまに火の粉がでてくるらしいからな。大火事になって森まで降りないようにしているんだよ」

「なんでまた、洞窟のなかにいるんですか」

「そこが山の真ん中だからかな。昔起こっていたときもそこにいたし。そこが一番落ち着くんだとおもうよ」

そういえば、ヤマメは元素魔法が使えるとかいっていた。ホウライも使えるのだろうか。

山中腹の洞窟はここですよ、と言わんばかりに回りに手が加えられている。小石で花壇を作っていたり、石を掘って像を作ったりしている。

「結構豆な人、だよ」

目で空を仰ぎながら王は言った。

フヨウが先頭に立ち光源となって洞窟に入る。剥げている人の頭を眩しいと言うがフヨウは剥げていなくても眩しい。頭部ではなく他の部分を光源にしてくれればよかったのだが。彼の機嫌が悪くなると面倒なのでいいやしないが。

「ホウラーイ、いるかー」

暗い道の脇には木箱がいくつも並んでいる。それだけは几帳面に積まれている。ここに置かれているからには、奥はすごく暑いのだろう。私は汗をかかなくなっているから問題はないのだが。

王の呼び掛けに答えるように奥の方から金属が叩かれる音が響く。

「コロ、壁からはなれて。」

道の真ん中にいくと、壁から手が生えてきた。次は顔。ヤマメの弟だと聞いていたから同じくらい身長が低いものだとばかり予想していたが、その予想に反してフヨウより高い。

「フヨウさん、なんですかそれ、すごく間抜けですよ」

細い目が常に微笑みかけているようなホウライはヤマメと同じ茶髪だ。まつげの感じと髪質がそっくりで、フヨウを馬鹿にする態度もそのままだ。

「王も連れてきているからしかたないだろ」

光っているから表情はよく見えないがふんぞり返って腕を組んでいるところから察すると少しイライラしているようだ。

「他のとこでもいいじゃないですか、まぶしいですよ。ヤマメぐらい低くないと」

頑固になっているフヨウは全く光らせている場所を変えようとせずに本題に入った。

要約すると、火山の熱を利用した蒸気によるタービンを作らせてほしいということだ。

「いいですけどね、火口から離れたとこにつくってくださいね。火口にはたまに泳ぎに来る人がいるんで。」

フヨウの態度を一切気にすることなく自分の意見をホウライは伝えた。

「王は、フヨウさんに着いてないと、倒れるでしょ。そちらの知らない方、あたしについてきてくださいな。案内します。」

王はすこし顔を曇らせてから、私の背を押した。「いってらっしゃい」というところだろうか。


王とフヨウとは違うペースで奥に進んでいく。暗いのに体がすこしもダルくならない所を考えると、既にこの洞窟のなかはとんでもなく暑いことだろう。

「ところで、お名前は?」

「頃丸里といいます。」

「ああ、ヤマメに仲間を食べられた方。本人も謝ったとは、聞いてますけど。あたしからも何かしら償いをさせていただきたいです」

「いえ、別にそんなこと結構ですよ。」

「ふむ、やっと厄介払いできると思ったんですけどね。あたしには必要のないものなんですよ。出口に置いてある木箱。あれはあたしのお客への商品で、この間その顧客から贈り物が来ましてね、あんないいもの、あたしはいらないので。慣れない星での生活は何かと不便でしょう。それは役に立ちますよ。」

一息、話した後洞窟の壁にホウライが手を触れる。そこからマグマが少しずつ溢れて暗闇を照らし出した。暗闇になれた目には、開けた場所が見え、生活感のあるスペースが距離感なくあらわれる。

「ホウライさんって、外に出ることはあるんですか」

「ないですね。上のお祭りにもでません。そもそも此処があたし自身ですので、山からは出られません。」

「他に来る人とかは?」

「ヤマメがガロウを連れてきますし、運び屋の黒い鳥が最近は来ますし、観光客もきます。寂しいことはないですよ。」

武骨な家具の引き出しから、精巧に装飾された小さな箱をホウライが取り出した。

「はい、こちらがそのあたしには勿体ないものです。貴方なら使いこなせるでしょうが、困ったときに使ってください。」

私の手元にくるとそれに書かれている文字が自然と頭に音となって響いた。

「ミセスジュエリーボックス?」

「それが、あたしのお客の名前。英世の方です。」


 ホウライはさらに奥に移動した。ほんのりと明るい道を真っ赤に煮えたぎる火口が塞いでいて、脇には石造りの箱にまた黒いなにがなんだかわからないものが分けて入れられている。

「それが、商品の原型。それを他のと合わせて並べていくと綺麗な色の石になるんだ。」

人工的に宝石を作り出すということでいいのだろうか。

「元素魔法というものでしょうか」

「うん。そうだね。知っていたんですね。」

「どういうことを指すんですか」

「ものの、構成を変化させたりとか、構成の手助けをする、電気をつかったりとか。」

 ホウライが腕を撒くって見せる。

「だから、より効率を追求して、自分の体を犠牲にしてる。」

肘の方に、やけに光を反射して輝く宝石がついている。ホウライの腕は義手のようだ。

「ヤマメもそうだし、あたしの子分のリウや、マモリもそう。マモリにいたっては全身このオーブにしてしまっています。」

 絶対に貴方はしてはいけませんよ、そういうことを言われた。


「ホウライから何か貰ったんですか」

隣に座った王が少し食い気味に聞いてくる。

「はい、」

はっきりとした光のなかで、金文字のミセスジュエリーボックスの文字を見せる。

「ああ、ジュビリーの宝石か。いいものには間違いない」

「中は開けてみたのか?普通の一粒入りより大きい箱みたいだが」

エンジンをふかす音と一緒にフヨウも話に入る。

「まだですけど、ここで開けてもいいものなんですか?」

「活性化させなければ大丈夫。花の香りとか、月の光にあてなければなにも起こらないよ」

上の蓋を優しくつまみ、除き混むようにゆっくりと開く。中には敷かれたクッションに光を集めている透明にすら見える透き通った宝石と、赤黒い自身の中に光を納めた宝石があった。金剛石と黒尖晶石だ。どちらも人指し指と親指いっぱいにつかまなければいけないほど大きい代物だ。とてもじゃないが指輪とか、首飾りには向かない大きさだ。

「それを本当にホウライが貰い受けたっていうのか?悪い冗談だろ。もしほんとにそうだっていうんなら、そのブラックスピネリはオブシディアンと間違えてジュビリーが入れたに違いない。」

浅い川が広がる平地を進みながら渡された宝石箱への疑問を言い合っているとフヨウの速度が少しずつ落とされていった。

窓から外をよくみると、浅い川が鏡のように空を反射していて水平線がわからない。だが、視界の隅に集中すると民家が見えていた。

「コモエの森の近くで下ろすから、俺が戻ってくるまで二人は散歩でもするといいよ。」

鏡の湖にはふさわしくない、異形の森の一部をそのまま持ってきたような場所にフヨウは私たちを下ろした。そこらじゅうぬかるみだらけで水草が生い茂った山の湿原より歩きにくい。それに反してフヨウの四輪駆動は足をとられることなくまた、山の方へ進んでいる。

「ここがスターライン。綺麗なとこなんだけど飛べるやつじゃないと移動が不便。だから川のところにすんでる連中は鳥系の異形タイプばかりさ。それ以外は此処みたいに森の庭を作ってる。この森も川に負けずにいいところだから。さ、手をとって。」

一足速く森に入っていた王は高い位置にたち私に向かって手を伸ばしている。宝石箱を腰につけた陶器の壺にいれて、王を手をとる。足元の岩にむした苔が嫌な音をたてて水分を吐き出した。

川が流れる音に対し静寂を保つ不自然に青い森は、空間に入るだけで吸い込まれそうな安心感があった。フヨウが言ったとおりに森の中には民家がひとつあり、既にこちらをうかがっているようだった。

「コモエ、大丈夫ですよ。」

 王の言葉が森に届くと、民家の戸が開いて白に赤を数滴垂らしたような淡い色の髪が跳ね散らした髪を持った人が出てきた。

「デモクラって、変わった人を好きになるのね」

「そういうことを言わないでもらえるかな」

「あなたって人の意見を優先させるけど、結局はすべてまとめ上げるじゃない。取捨選択がとってもお上手なのね。それが従者であるヤマメではなく無力な彼を選んだってどういうことかしら。」

 王は青筋をたてるような顔をして、コモエを黙らせようとした。

「話題を変えろってね、はいはい。なんでここに来たの?郵便に不都合でも?最近研修でウル地方の子に運ばせてるけど特に不都合はないはずよ。その子優秀だもの」

 黒い翼の不気味な人を思い出した。彼はここにはいない。

「フヨウが水車を作るからここに来たんだ。それを待っている間、地域の長である貴方に話しに来た。フヨウの方がやればいいんだが、貴方も知っているでしょう。フヨウが話を覚えておけないってことは。自分がやらないといけないことしか覚えていないんですから。」



王とコモエの皮肉合戦の後、西海岸沿いの白い村ホワイトウィンに向かった。王がコモエも同じようにしゃべっている間に発動する能力であることを説明していた。なんでも洗いざらい吐かされてしまうらしい。 

ホワイトウィンは、まるで世界が死んだような村だった。町並みはすべて一定で建物の色は白で統一。ところ狭しと詰められたタイルですら大きさや、凹凸の位置がすべて同じに見えた。

こんな奇妙で下品なところにすんでいるのはどんなやつなんだ、と軽蔑の視線をあちこちに振り撒いていたらコモエの髪に空の色を加えたような色の髪を整えた人が出てきた。

レイリュウ、その人は人の考えを読むので王もフヨウも全くしゃべらないうちにフヨウの作業が終わってしまった。レイリュウは全員分の会話をしていた。私は思った。

こんな村二度と来るか。



ホワイトウィンは空まで明るいままの村だったので、村の外の時間がわからなかった。村を出て暗い場所に出るとすぐに王が膝から崩れ落ちた。フヨウが「村のなかで変身して置いた方がよかったね」と頭を掻きながら言った。

「まったくですね」王を抱えながら返事をした。

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